HIPHOPはサンプリングのカルチャーだとよく言われますよね!
まずは最近聴き始めた人のためにサンプリングとは何かを簡単におさらいしましょう。
既存(過去)の音源から音(ベース音等)や歌詞の一部分を抜粋し、同じパートをループさせたり継ぎ接ぎするなど曲の構成を再構築することで名目上別の曲を作り出す手法のこと。
-サンプリング wikipediaより引用
要するに"過去の名曲のエッセンスを継承し、新しい音楽として蘇らせる"魔法のような手法ですね。
「パクリじゃないの?」なんて野暮なことは言わせません。そこには元の作品への強烈な"リスペクト"と、それをどう調理するかという"センス"が問われる、HIPHOPの根幹をなすアートフォームなんです。
この記事では、さまざまなアーティストの「元ネタ(サンプリングソース)」を探っていきます。
「この渋いベース、実は70年代のソウルだったのか!」とか「このフレーズ、あの大ネタと同じじゃん!」といった発見は、音楽を聴く楽しさを何倍にもしてくれます。
ってことで、第25回目はかせきさいだぁの元ネタを探っていきましょう!
これまでの連載とは、かなり毛色の違う回になります。かせきさいだぁは、グループTONEPAYSを経て1994年にソロプロジェクト「かせきさいだぁ≡」を結成。ナムコでファミスタのドット絵を描きながら活動していたという、異色の経歴の持ち主です。1996年にメジャーデビュー。
注目されたのは、はっぴいえんどや松本隆の楽曲を引用するラップ。硬派でも本場直結でもない、「脱力系」と呼ばれる日本のポップ・マニアのネタ帳を、今回は7曲分開いてみましょう!
かせきさいだぁの曲を元ネタと比較してみましょう
かせきさいだぁ / さいだぁぶるーす
まずはメジャーデビューシングル(1996年)の表題曲であり、1stアルバムの幕開けでもある、最大の代表曲から。
かせきさいだぁ - さいだぁぶるーす
Cloudberry Jam - Whatever Happens
元ネタは、スウェーデンのインディーポップバンドCloudberry Jamの「Whatever Happens」です。
連載でさんざん見てきたソウルやファンクの大ネタではなく、90年代の北欧ポップ。渋谷系の空気を吸って育った世代の選球眼が、そのまま出ている組み合わせだと思います。
Cloudberry Jam - Whatever Happens
かせきさいだぁ / 苦悩の人
続いては、この人のアイデンティティが最も濃く出た1曲を。ネタ帳には元ネタが2件登録されています。
かせきさいだぁ - 苦悩の人
はっぴいえんど - 風をあつめて
1つ目は、はっぴいえんどの「風をあつめて」(1971年『風街ろまん』、作詞:松本隆/作曲:細野晴臣)です。
かせきさいだぁは、はっぴいえんどや松本隆の楽曲を引用したラップで注目された人。その本丸とも言えるネタがここにあります。日本語ロックの原点を、日本語ラップが掘り直すという構図ですね。
はっぴいえんど - 風をあつめて
Wings - Band on the Run
2つ目は、Wingsの「Band on the Run」(1973年)。Paul McCartneyの代表作の1つです。
日本のロックの原点と、英国ロックの巨人の曲が、同じ1曲の土台に同居している。この振れ幅こそ、ポップ・マニアとしての かせきさいだぁ の真骨頂だと思います。
Wings - Band on the Run
かせきさいだぁ / TONEPAYS GUITAR
前身グループTONEPAYSの名を冠した曲も、元ネタは2件登録されています。
かせきさいだぁ - TONEPAYS GUITAR
David Sylvian - Red Guitar
1つ目は、David Sylvian(デヴィッド・シルヴィアン)の「Red Guitar」(1984年)。Japanの元フロントマンによる、耽美なソロ作です。
David Sylvian - Red Guitar
Talking Heads - Once in a Lifetime
2つ目は、Talking Headsの「Once in a Lifetime」(1980年)。ニューウェイヴの金字塔です。
自分のバンドの名を冠した曲の土台が、敬愛する英国の音楽家たち。自伝的な曲に、私淑する名前を刻むような使い方だなと思います。
Talking Heads - Once in a Lifetime
かせきさいだぁ / ディグ・ダグ・プーカ
インディーズ盤の1曲目、実質的なデビュー作のオープニングも元ネタ2件です。
かせきさいだぁ - ディグ・ダグ・プーカ
大滝詠一 - ハンド・クラッピング・ルンバ
1つ目は、大滝詠一の「ハンド・クラッピング・ルンバ」。はっぴいえんどの元メンバーによる、ナイアガラ印の1曲です。
大滝詠一 - ハンド・クラッピング・ルンバ
Beastie Boys - (You Gotta) Fight for Your Right (to Party!)
2つ目は、Beastie Boysの「(You Gotta) Fight for Your Right (to Party!)」(1986年)。説明不要のパーティーアンセムですね。
大滝詠一とBeastie Boys。ナイアガラとブロンクスが同じ曲で出会う。このごった煮感が、ゲームのタイトルを冠したデビュー曲にぴったりだと思います。
Beastie Boys - (You Gotta) Fight for Your Right
かせきさいだぁ / じゃっ夏なんで
1stシングルのカップリングで、初期の人気曲の夏ソングを。
かせきさいだぁ - じゃっ夏なんで
Grover Washington Jr. - Just the Two of Us
元ネタは、Grover Washington Jr.の「Just the Two of Us」(1981年、feat. Bill Withers)。世界中で愛されるスムース・ソウルの大名曲です。
脱力した夏のラップの土台が、この極上の1曲。元ネタ側の知名度は今回の候補で随一で、「あ、この曲か!」となる読者も多いはずです。
Grover Washington Jr. - Just the Two of Us
かせきさいだぁ / 土曜日のかせきさいだぁ
1stアルバムのタイトルチューン的な1曲は、元ネタが2件登録されています(かせきさいだぁ側の音源は今回はテキストのみで紹介します)。
The Millennium - To Claudia on Thursday
1つ目は、The Millenniumの「To Claudia on Thursday」(1968年)。サンシャイン・ポップの古典です。
「土曜日」の曲が、「木曜日(Thursday)」の曲を使っている。この曜日同士の符合は、言葉遊び好きの かせきさいだぁ らしい偶然(?)ですね。
The Millennium - To Claudia on Thursday
Esteban "Steve" Jordan - Pura Jales
2つ目は、Esteban "Steve" Jordanの「Pura Jales」。テハーノ(メキシコ系アメリカ音楽)のアコーディオン奏者の曲だそうです(こちらは音源が見つからなかったためテキストのみで紹介します)。
サンシャイン・ポップとテハーノ音楽。この守備範囲の広さは、もはや音楽オタクの域を超えて民族音楽学者みたいだなと思います(笑)。
かせきさいだぁ / ルージュの伝言
最後は変わり種を。2013年のカバーアルバム『かせきさいだぁのアニソング!! バケイション!』収録曲で、荒井由実の国民的名曲のカバーです。先に言っておくと、元ネタの話は「原曲」ではなく「このカバー版」の話です。
かせきさいだぁ - ルージュの伝言
The Clash - Rock the Casbah
このカバー版で使われているのが、The Clashの「Rock the Casbah」(1982年)なんです。
ユーミンの名曲のカバーが、英国パンクの帝王のヒット曲を土台にしている。この意外性は、今回の7曲でも最大級。カバーという形式の中でも、サンプリングの発想は生きているんですね。
The Clash - Rock the Casbah
最後に
今回のかせきさいだぁの元ネタは、Cloudberry Jam、はっぴいえんど、Wings、David Sylvian、Talking Heads、大滝詠一、Beastie Boys、Grover Washington Jr.、The Millennium、Esteban "Steve" Jordan、The Clashという布陣でした。
連載で初めて、元ネタの背骨が日本のポップス(はっぴいえんどとその人脈)になった回でした。硬派なヒップホップとも、本場直結型とも違う、「好きな音楽を全部ラップに取り込む」という態度が、ネタ帳の顔ぶれそのものに表れていると思います。
ネタ帳には「相合傘」(鈴木茂「ウッド・ペッカー」)や、バージョン違いで元ネタが変わる「冬へと走りだそう」など、まだ面白い組み合わせが残っているので、かせきさいだぁ編もいずれ後編をやりたいところです。
ではまた次の元ネタを探せ!でお会いしましょう!