HIPHOPはサンプリングのカルチャーだとよく言われますよね!
まずは最近聴き始めた人のためにサンプリングとは何かを簡単におさらいしましょう。
既存(過去)の音源から音(ベース音等)や歌詞の一部分を抜粋し、同じパートをループさせたり継ぎ接ぎするなど曲の構成を再構築することで名目上別の曲を作り出す手法のこと。
-サンプリング wikipediaより引用
要するに"過去の名曲のエッセンスを継承し、新しい音楽として蘇らせる"魔法のような手法ですね。
「パクリじゃないの?」なんて野暮なことは言わせません。そこには元の作品への強烈な"リスペクト"と、それをどう調理するかという"センス"が問われる、HIPHOPの根幹をなすアートフォームなんです。
この記事では、さまざまなアーティストの「元ネタ(サンプリングソース)」を探っていきます。
「この渋いベース、実は70年代のソウルだったのか!」とか「このフレーズ、あの大ネタと同じじゃん!」といった発見は、音楽を聴く楽しさを何倍にもしてくれます。
ってことで、第16回目はECDの元ネタを探っていきましょう!
1980年代からDJとして活動し、1992年にラッパーとしてアルバムデビューした、日本語ラップのオリジネーターのひとりです。社会や時代に対して真正面から言葉をぶつけるスタイルは、後の世代のラッパーたちに計り知れない影響を与えました。
そしてECDのすごいところは、ネタの選び方にもその批評精神が表れていること。ソウルの王道から日本のアイドル歌謡、ロックのブレイクまで、ジャンルの壁を軽々と越えて使いこなしてしまうんです。
2018年に57歳でこの世を去ってしまいましたが、彼の残した言葉とネタのセンスは、今も色褪せていません。今回はその中から4曲を紹介します!
ECDの曲を元ネタと比較してみましょう
ECD / ECDのロンリーガール feat. K DUB SHINE
まずは1997年のアルバム『BIG YOUTH』収録の、ECDの代表曲です。
渋谷センター街で生きる少女たちの姿を描いたリリックは、当時の世相への痛烈な視線そのもの。B面曲でありながらA面以上に愛され続けてきた、メロウで切ない大名曲です。客演のK DUB SHINEのバースも含めて、さんピン世代の胸に深く刻まれているはず。
ECD - ECDのロンリーガール feat. K DUB SHINE
Marvin Gaye - Sexual Healing
この曲の土台にあるのが、Marvin Gaye(マーヴィン・ゲイ)の「Sexual Healing」。1982年の大ヒット曲で、説明不要のソウル大ネタですよね。
Marvin Gaye - Sexual Healing (Official HD Video)
そしてもうひとつ、この曲には大事な元ネタがあります。1983年に発表されたアイドル歌謡、佐東由梨の「ロンリー・ガール」。作詞は松本隆、作曲は筒美京平という最強コンビの曲で、実はこの曲自体が「Sexual Healing」を参照して作られたと言われています。
つまりECDは、マーヴィン・ゲイと、それを下敷きにした日本の歌謡曲、その両方をまとめて引き受けて「ECDのロンリーガール」を作ったわけです。ネタの系譜そのものが1曲の中に折り重なっている。これが分かると、この曲の深みが何倍にも感じられますよね。
ちなみにこの曲は後に加藤ミリヤが「ディア ロンリーガール」としてアンサーソングを大ヒットさせ、2017年にはECD本人を迎えた「新約ディア ロンリーガール feat.ECD」も生まれました。ネタが世代を越えて歌い継がれていく、サンプリング文化の理想みたいな曲だと思います。
ECD / チェック・ユア・マイク (1992 REMIX)
ECDが1992年、ラッパーとして歩き始めた頃の曲です。タイトル通り、マイクチェックから始まる自己紹介のような1曲。日本のヒップホップがまだ手探りだった時代に、すでにこの完成度だったというのが驚きですよね。
Aretha Franklin - Think
元ネタはソウルの女王、Aretha Franklin(アレサ・フランクリン)の「Think」。1968年の曲で、映画『ブルース・ブラザース』で彼女本人が歌うシーンでも有名ですね。
「よく考えなさい」というこの曲のメッセージ性と、言論で社会に切り込むECDの姿勢は、実はとても相性がいいんです。デビュー期からネタ選びに思想が宿っている。ECDらしいですよね〜。
Aretha Franklin - Think
ECD / DO THE BOOGIE BACK
タイトルでピンときた人もいるかもしれません。「ブギー・バック」へのECDなりの返答のような、遊び心のある1曲です。こういうユーモアを忘れないところもECDの魅力ですよね。
The Brothers Johnson - Strawberry Letter 23
元ネタはThe Brothers Johnson(ブラザーズ・ジョンソン)の「Strawberry Letter 23」。1977年、クインシー・ジョーンズのプロデュースで大ヒットしたファンクの名曲です。元々はシュギー・オーティスが1971年に書いた曲で、こちらもサンプリングやカバーの系譜が何重にも重なった大ネタ。
キラキラしたギターと浮遊感のあるコーラス。この甘いトラックの上でECDが何を喋るのか、聴き比べてみてください!
The Brothers Johnson - Strawberry Letter 23
ECD / HIP HOP GAME
最後は、ネタのデパートみたいなこの曲です。僕のネタ帳でも、この曲だけで10曲以上の元ネタが登録されています。まさに「HIP HOP GAME」というタイトル通り、ヒップホップの歴史そのものをコラージュしたような1曲なんです。
Billy Squier - The Big Beat
その中から代表して紹介するのが、Billy Squier(ビリー・スクワイア)の「The Big Beat」。1980年のロックの曲ですが、冒頭のドラムのブレイクはヒップホップ史上最も有名なネタのひとつで、Run-DMCからJay-Zまで、300回以上もサンプリングされてきたと言われています。
ECDはこの曲で他にも、The Honey Drippersの「Impeach The President」やAC/DCの「Back In Black」まで使い倒しています。ロックもソウルも関係なし。使えるネタは全部使う。その貪欲さこそ、ECDのディグ(掘り)の真骨頂だと思います。
Billy Squier - The Big Beat
最後に
今回はECDの元ネタを探っていきました!いかがでしたでしょうか?
Marvin Gaye、佐東由梨、Aretha Franklin、The Brothers Johnson、Billy Squier。ソウル、歌謡曲、ロックがごちゃ混ぜになったこのラインナップこそ、ジャンルではなく「言葉を通すための音」を探し続けたECDの姿勢そのものだと思います。
ECDの曲は、元ネタを知ってから聴き直すと、リリックの切れ味がさらに増して聴こえてくるんですよね。ぜひ原曲と聴き比べながら、彼の言葉に耳を澄ませてみてください。
ではまた次の元ネタを探せ!でお会いしましょう!