本文へ
JAPANESE HIP-HOP
MUSIC / CULTURE / PEOPLE
⌕
アーティスト名鑑

ECD

読み方いーしーでぃー

ECD(イー・シー・ディー)は、1980年代末から活動を続けた日本語ラップの草分けであり、「社会派」ラップの先駆者。1996年には日本初の大規模ヒップホップ・フェスティバル「さんピンCAMP」を主催し、シーンそのものを作る側に回った。イラク戦争反対のサウンドデモや反原発、反レイシズムといった社会運動の現場に立ち続ける一方、後年は働きながら子育てする日常を歌う「私小説的」な作品で独自の境地を切り開いた。2018年、57歳で死去。

基本データ

アーティスト名 ECD(イー・シー・ディー)
本名 石田義則(いしだ・よしのり)
生年月日 1960年3月29日、東京都出身
死去 2018年1月24日(57歳、食道がん)
活動期間 1987年 - 2018年
デビュー 1990年、シングル「Pico Curie」。1992年に1stアルバム『ECD』
所属・レーベル Major Force、cutting edge、P-VINE、Final Junky(自身のレーベル)
公式サイト ECD アーティストページ(P-VINE)

来歴

1960年、東京都に生まれる。中野区で育ち、中高生時代を吉祥寺で過ごした。1982年にジョン・ライドンのインタビューでグランドマスター・フラッシュを知ってヒップホップに興味を持ち、1986年のRUN D.M.C.初来日公演を見てラッパーになることを決意。1987年、名字「石田」の響きにアルファベットをあてた「ECD」を名乗り、活動を始めた。1989年にはヒップホップ・イベント「CHECK YOUR MIKE」を主催し、後のシーンを担うMCたちが出入りする場を作る。1990年、チェルノブイリ原発事故を題材にしたシングル「Pico Curie」でデビューし、1992年に1stアルバム『ECD』をリリースした。

1996年7月7日、日比谷野外大音楽堂で「さんピンCAMP」を主催。日本初の大規模ヒップホップ・フェスティバルとされるこのイベントは、日本語ラップが「シーン」として社会に可視化される転機となった。1997年の『Big Youth』には、K DUB SHINEを迎えた「ECDのロンリー・ガール」を収録。その後cutting edgeから『Melting Pot』(1999年)、『Thrill of It All』(2000年)を発表したが、2002年に重度のアルコール依存症で入院。退院後は就職し、音楽と仕事を両立させる兼業ミュージシャンとして活動を続けた。2003年には自身のレーベルFinal Junkyを立ち上げ、自主制作アルバム『失点 in the park』を発表している。

2000年代以降のECDは、社会運動の現場に立つラッパーとしての顔を強めていく。2003年にはイラク戦争反対のサウンドデモに参加し、シングル「言うこと聞くよな奴らじゃないぞ」を発表。2008年に写真家の植本一子と結婚し、2人の娘をもうけてからは、育児と労働と家計といった生活の現実がリリックの中心になっていった。2011年には東日本大震災後の反原発運動に参加して「反原発REMIX」を発表し、首相官邸前デモでもコールを行った。2013年にはイルリメとの共作アルバム『The Bridge - 明日に架ける橋』を発表し、反レイシズムのメッセージを打ち出している。

2016年9月、自身のTwitterで進行性のがんを公表。以後も闘病しながら制作と発信を続けた。2017年には2000年代以降の楽曲を集めたベスト・アルバム『21世紀のECD』をリリース。同年12月には、自身の「ECDのロンリー・ガール」をモチーフにした加藤ミリヤの楽曲「新約ディアロンリーガール」に客演し、これが最後のレコーディングとなった。2018年1月24日、食道がんのため死去。57歳だった。訃報は家族によって伝えられ、Zeebraをはじめ多くのミュージシャンが追悼の言葉を寄せた。

年 出来事
1987年 「ECD」として音楽活動を開始
1989年 ヒップホップ・イベント「CHECK YOUR MIKE」を主催
1990年 シングル「Pico Curie」でデビュー
1992年 1stアルバム『ECD』発売
1996年 日比谷野外大音楽堂で「さんピンCAMP」を主催
1997年 アルバム『Big Youth』発売。「ECDのロンリー・ガール feat. K DUB SHINE」収録
2002年 アルコール依存症で入院。以後は兼業ミュージシャンとして活動
2003年 自身のレーベルFinal Junkyから『失点 in the park』を自主制作で発表。イラク戦争反対のサウンドデモに参加し「言うこと聞くよな奴らじゃないぞ」を発表
2008年 写真家の植本一子と結婚
2011年 反原発運動に参加し「反原発REMIX」を発表
2013年 イルリメとの共作アルバム『The Bridge - 明日に架ける橋』発売
2016年 進行性のがんを公表
2017年 ベスト・アルバム『21世紀のECD』発売。加藤ミリヤ「新約ディアロンリーガール feat. ECD」に客演
2018年 1月24日、食道がんのため死去(57歳)

音楽性

ECDのリリックは大きく2つの軸で貫かれている。ひとつは社会への直接的な発言だ。デビュー曲「Pico Curie」の原発批判に始まり、「レイシスト」の人種差別告発、イラク戦争反対デモから生まれた「言うこと聞くよな奴らじゃないぞ」、震災後の「反原発REMIX」、反レイシズムを掲げた『The Bridge』まで、社会運動の現場と地続きの言葉をラップに載せ続けた。日本語ラップにおける「社会派」の原型はここにある。

もうひとつは、私小説のように生活を綴る視点だ。2000年代以降、就職して兼業ミュージシャンとなり、結婚・育児を経たECDの歌詞は、給料、家計、子育て、老い、そして自身の病へと向かう。『Don't worry be daddy』や「家庭の事情」に象徴される「働く父親のラップ」は、ヒップホップの虚勢とは正反対の場所から生まれた、誰にも真似のできない表現だった。多数の著書を持つ書き手でもあり、その文章とリリックは地続きになっている。サウンド面ではイルリシット・ツボイらとの協働を軸に、ヒップホップに限定されない多様な音楽性を取り込んだ。

ディスコグラフィ

※本記事のApple Musicリンクはアフィリエイトリンクです。

リリース日 タイトル 種別
1992年2月11日 ECD 1stアルバム
1993年7月15日 WALK THIS WAY 2ndアルバム
1995年 ホームシック アルバム(Apple Musicでの配信なし)
1997年 Big Youth アルバム(Apple Musicでの配信なし)
1999年 Melting Pot アルバム(Apple Musicでの配信なし)
2000年 Thrill of It All アルバム(Apple Musicでの配信なし)
2002年1月23日 SEASON OFF アルバム
2003年 失点 in the park アルバム(自主制作。リンク先はP-VINE盤)
2004年 Final Junky アルバム
2005年 2Pac アルバム(ECDILLREME名義、イルリメとの共作。Apple Musicでの配信なし)
2006年7月7日 Crystal Voyager アルバム
2008年 Fun Club アルバム(Apple Musicでの配信なし)
2009年9月16日 天国よりマシなパンの耳 アルバム
2010年5月26日 TEN YEARS AFTER アルバム
2012年3月7日 Don't worry be daddy アルバム
2013年3月27日 The Bridge - 明日に架ける橋 アルバム(イルリメとの共作)
2014年6月4日 FJCD-015 アルバム
2015年11月4日 Three wise monkeys アルバム(生前最後のオリジナル・アルバム)
2017年7月19日 21世紀のECD ベストアルバム(Apple Musicでの配信なし)

代表曲

CHECK YOUR MIKE

1stアルバム『ECD』収録(アルバム収録は1992 REMIXバージョン)。自身が主催したイベントの名を冠した楽曲で、シーンの作り手でもあったECDの出発点を示す一曲。

Apple Musicで聴く(『ECD』収録)

レイシスト

『WALK THIS WAY』収録。人種差別を正面から告発した楽曲で、「社会派」としてのECDの方向性を決定づけた初期の代表作。

Apple Musicで聴く(『WALK THIS WAY』収録)

ECDのロンリー・ガール feat. K DUB SHINE

『Big Youth』収録。マーヴィン・ゲイの「I Want You」を下敷きに、援助交際をする少女と中年男性の関係を描いたECD最大の代表曲。加藤ミリヤ「ディア・ロンリーガール」のモチーフにもなり、2017年にはECD本人が客演した続編的楽曲「新約ディアロンリーガール feat. ECD」(加藤ミリヤ)が発表された。これがECDの遺作となった。なお原曲収録アルバム『Big Youth』はApple Musicで配信されていないため、ここでは「新約ディアロンリーガール」のリンクを掲載する。

Apple Musicで聴く(加藤ミリヤ「新約ディアロンリーガール feat. ECD」)

言うこと聞くよな奴らじゃないぞ

2003年発表のシングル。イラク戦争反対のサウンドデモの現場から生まれたフレーズをタイトルにし、朱里エイコ「イエ・イエ」のトラックに乗せて歌った、デモと地続きのアンセム。Apple Musicでは配信されていない。

家庭の事情

『Don't worry be daddy』収録、2012年にシングルとしても発売。働きながら子育てをする日常の機微を歌った、後期ECDを象徴する楽曲。

Apple Musicで聴く(『Don't worry be daddy』収録)

憧れのニューエラ

イルリメとの共作アルバム『The Bridge - 明日に架ける橋』収録。没後の2021年、3回忌に合わせて公式ミュージックビデオがP-VINEから再公開された。

ECDのジャスト ア フレンド

『FJCD-015』収録。没後の2021年に公式ミュージックビデオが公開された楽曲で、映像でECDに再会できる貴重な一曲。

LINK

生前最後のオリジナル・アルバム『Three wise monkeys』収録。公式ミュージックビデオが公開されている。

今後のライブ

ECDは2018年1月24日に逝去したため、今後のライブ予定はない。没後も作品の発信は続いており、2020年にはFinal Junky期のオリジナル・アルバム9タイトルがストリーミング解禁され、2021年には「ECDのジャスト ア フレンド」など映像作品3本が公式に公開・再公開された。2022年には『失点 in the park』が2枚組アナログ盤としてリリースされている。

出典・確認日

  • P-VINE 公式アーティストページ(プロフィール/リリース/News)
  • ORICON NEWS「ECDさん死去 57歳 日本語ラップの先駆者」(2018年1月25日)
  • 日刊スポーツ「がん闘病のECDさん死去、家族が伝える」(2018年1月25日)
  • 音楽ナタリー(ECD関連記事:進行性がん公表、植本一子との入籍、反原発REMIXほか)
  • Apple Music(各作品ページ)
  • ele-king 追悼特集/DIGWAX RECORDS ECD特集(補助資料)
  • Wikipedia「ECD (ミュージシャン)」(補助資料)

確認日:2026年11月2日

関連タグ:

もう少し読む