本文へ
JAPANESE HIP-HOP
MUSIC / CULTURE / PEOPLE
⌕
特集・考察

日本語ラップの元ネタを探せ! 第22回 DJ KRUSH 編!!!

HIPHOPはサンプリングのカルチャーだとよく言われますよね!

まずは最近聴き始めた人のためにサンプリングとは何かを簡単におさらいしましょう。

既存(過去)の音源から音(ベース音等)や歌詞の一部分を抜粋し、同じパートをループさせたり継ぎ接ぎするなど曲の構成を再構築することで名目上別の曲を作り出す手法のこと。

-サンプリング wikipediaより引用

要するに"過去の名曲のエッセンスを継承し、新しい音楽として蘇らせる"魔法のような手法ですね。

「パクリじゃないの?」なんて野暮なことは言わせません。そこには元の作品への強烈な"リスペクト"と、それをどう調理するかという"センス"が問われる、HIPHOPの根幹をなすアートフォームなんです。

この記事では、さまざまなアーティストの「元ネタ(サンプリングソース)」を探っていきます。

「この渋いベース、実は70年代のソウルだったのか!」とか「このフレーズ、あの大ネタと同じじゃん!」といった発見は、音楽を聴く楽しさを何倍にもしてくれます。

ってことで、第22回目はDJ KRUSHの元ネタを探っていきましょう!

前回のMUROに続いて、またも「作り手」の回です。しかもこの2人、1987年にKRUSH POSSEという同じグループにいた相方同士。連載が続くと、こういう糸がつながっていくのが面白いんですよね。

DJ KRUSHは、映画『ワイルド・スタイル』に衝撃を受けてDJを始めた、1962年生まれの東京出身。1994年には英Mo' Waxから『Strictly Turntablized』を発表し、インストゥルメンタル・ヒップホップを世界の舞台に押し上げた、日本が世界に誇るビートメイカーです。

ラップではなく、ビートと質感で聴かせる男のネタ帳。今回はその中から7曲を紹介します!


DJ KRUSHの曲を元ネタと比較してみましょう

DJ KRUSH / Only the Strong Survive feat. C.L. Smooth

まずは『MEISO』(1995年)の冒頭を飾るこの曲から。ニューヨークの名MC、C.L. Smoothを迎えた代表曲で、全英シングルチャートで71位に入りました。

DJ KRUSH - Only the Strong Survive

山本邦山 - 銀界

この曲の元ネタでまず驚くのが、ネタ帳に山本邦山(やまもと ほうざん)の名前があることです。人間国宝にもなった、日本を代表する尺八奏者。その「銀界」(1971年)や「序」が使われています。

本人インタビューによると、C.L. Smoothとの制作中に偶然手に取った前衛ジャズのレコードに入っていた尺八の音がハマったのだとか。ニューヨークのMCと日本の尺八。サンプリングだからこそ生まれた邂逅です。

山本邦山 - 銀界

Ahmad Jamal - Wave

ネタ帳にはもう1件、ピアニストAhmad Jamal(アーマッド・ジャマル)の「Wave」も登録されています。

ジャズの巨人のピアノと、日本の尺八と、ニューヨークのラップ。3つの大陸の音楽が1曲の中で出会っている。これぞサンプリングの醍醐味だと思います。

Ahmad Jamal - Wave


DJ KRUSH / DUALITY

続いては、盟友DJ Shadowとの共作(1995年)です。Mo' Wax黄金期を象徴する、日米のアブストラクト・ヒップホップの巨頭同士の邂逅ですね。

DJ KRUSH - DUALITY

David Axelrod - The Warnings (Part I)

ネタ帳の登録の1つが、David Axelrod(デヴィッド・アクセルロッド)の「The Warnings (Part I)」です。

アクセルロッドは、ドラムの音作りでサンプリング史に巨大な足跡を残したプロデューサー。KRUSHとShadowという「サンプリングで世界を取った2人」が、土台にこの人の曲を選んでいるのが象徴的です。

David Axelrod - The Warnings

Motherlode - Soft Shell

もう1件は、ファンクバンドMotherlodeの「Soft Shell」(1969年)。

大物プロデューサーの名曲と、ファンクの掘り下げた1曲。2人のディグの深さがそのまま出た組み合わせだと思います。

Motherlode - Soft Shell


DJ KRUSH / Mind Games feat. Eri Ohno

『MiLight』(1996年)からはこの曲を。この曲は正確には「サンプリング」というよりカバーとして紹介されることの多い曲ですが、ネタ帳に登録があるので取り上げます。

DJ KRUSH - Mind Games

John Lennon - Mind Games

元になったのは、John Lennonの「Mind Games」(1973年)です。

レノンの名曲を、日本のジャズ・シンガー大野えりが歌い、KRUSHがスモーキーなビートを付ける。原曲の浮遊感を、日本のクラブジャズの空気に翻訳したような1曲で、カバーという形もまた「元ネタとの付き合い方」の1つだなと思います。

John Lennon - Mind Games


DJ KRUSH / Big City Lover (Remix)

ソロデビュー期の代表曲のリミックス版について、ネタ帳にはこういう登録があります。

DJ KRUSH - Big City Lover

Donald Byrd - Think Twice

元ネタは、Donald Byrd(ドナルド・バード)の「Think Twice」。1975年のアルバム『Stepping Into Tomorrow』収録で、プロデュースはLarry Mizellです。

この曲はサンプリング史の超定番で、後にJ Dillaがリメイクしたことでも有名になりました。KRUSHが若き日にこの曲を選んでいたというのは、後の「掘る耳」の確かさを裏付けている気がします。

Donald Byrd - Think Twice


DJ KRUSH / MEISO

『MEISO』のタイトル曲は、The RootsのBlack ThoughtとMalik Bが参加したボーカル曲でもあり、全英52位に入ったシングルでもあります。

DJ KRUSH - MEISO

Joe Farrell - Times Lie

元ネタは、CTIレーベルで活躍したサックス奏者、Joe Farrell(ジョー・ファレル)の「Times Lie」です。

フィラデルフィアのMCたちを迎えた曲の土台が、70年代のジャズ。これもKRUSHの基本形と言える組み合わせですね。

Joe Farrell - Times Lie


DJ KRUSH / ESCAPEE

『覚醒(KAKUSEI)』(1998年)からは、A.S.A.との共作のこの曲を。

DJ KRUSH - ESCAPEE

Les McCann - Poo Pye McGoochie

元ネタは、鍵盤奏者Les McCann(レス・マッキャン)の「Poo Pye McGoochie」です。

面白いのは、ネタ帳では「ESCAPE」という別の曲の元ネタとしても、この曲が登録されていること。同じネタを、別の時期の別の曲でもう一度使う。それだけこのレコードがKRUSHの棚で特別な場所にある、ということなんでしょうね。

Les McCann - Poo Pye McGoochie


DJ KRUSH & DJ Shadow / 89.9 MEGAMIX

最後は、DJ Shadowとのもう1つの共作(1995年)。ラジオ局の周波数をタイトルに冠した、メガミックス形式の企画盤です。

89.9 MEGAMIX

The 5th Dimension - The Rainmaker

ネタ帳に登録のある元ネタは、The 5th Dimensionの「The Rainmaker」です。

「Aquarius/Let the Sunshine In」で知られる大物ポップス・グループの曲が、日米のターンテーブリストのミックスの素材になっている。掘る側の2人が選ぶと、ポップスの名曲もまた違う顔を見せるんです。

The 5th Dimension - The Rainmaker


最後に

今回のDJ KRUSHの元ネタは、山本邦山、Ahmad Jamal、David Axelrod、Motherlode、John Lennon、Donald Byrd、Joe Farrell、Les McCann、The 5th Dimensionという布陣でした。

今回いちばんの驚きは、やはり山本邦山の尺八でした。世界の舞台で戦ってきたビートメイカーが、決定的な1曲で選んだのが日本の伝統楽器の音だったというのは、何度考えても痺れる話です。

ネタ帳には「EDGE OF BLUE」(Johnny Hammondの別曲。第19回・第20回で扱った「Call On Me」と同じアーティストです)や「BLINK」(Herbie Hancock「Watermelon Man」)など、まだ面白い組み合わせが残っているので、DJ KRUSH編もいずれ後編をやりたいところです。

ではまた次の元ネタを探せ!でお会いしましょう!

関連タグ:

もう少し読む