HIPHOPはサンプリングのカルチャーだとよく言われますよね!
まずは最近聴き始めた人のためにサンプリングとは何かを簡単におさらいしましょう。
既存(過去)の音源から音(ベース音等)や歌詞の一部分を抜粋し、同じパートをループさせたり継ぎ接ぎするなど曲の構成を再構築することで名目上別の曲を作り出す手法のこと。
-サンプリング wikipediaより引用
要するに"過去の名曲のエッセンスを継承し、新しい音楽として蘇らせる"魔法のような手法ですね。
「パクリじゃないの?」なんて野暮なことは言わせません。そこには元の作品への強烈な"リスペクト"と、それをどう調理するかという"センス"が問われる、HIPHOPの根幹をなすアートフォームなんです。
この記事では、さまざまなアーティストの「元ネタ(サンプリングソース)」を探っていきます。
「この渋いベース、実は70年代のソウルだったのか!」とか「このフレーズ、あの大ネタと同じじゃん!」といった発見は、音楽を聴く楽しさを何倍にもしてくれます。
ってことで、第23回目はK DUB SHINEの元ネタを探っていきましょう!
第19回のZEEBRAに続いて、キングギドラから2人目。しかもK DUB SHINEは、ギドラのコンセプトを発案したリーダーその人です。アメリカで約8年間生活し、現地でヒップホップと出会って、オークランドからZEEBRAに電話をかけて意気投合したのが結成のきっかけだったとか。
1993年のキングギドラ結成から、1997年のソロデビュー作『現在時刻』、そしてアトミックボム・プロダクションズの設立まで。「渋谷のドン」「最後の皇帝」と呼ばれる男のネタ帳を、今回は7曲分、開いてみましょう!
K DUB SHINEの曲を元ネタと比較してみましょう
K DUB SHINE / ラストエンペラー
まずはソロデビュー作『現在時刻』(1997年)の2曲目から。愛称「最後の皇帝」に直結する、K DUB SHINEの名刺代わりの1曲です。
K DUB SHINE - ラストエンペラー
Ronnie Foster - Cheshire Cat
ネタ帳にはこの曲の元ネタが2件登録されています。1つ目は、Blue Note系のオルガン奏者Ronnie Foster(ロニー・フォスター)の「Cheshire Cat」(1975年)。
Ronnie Foster - Cheshire Cat
Syl Johnson - Different Strokes
2つ目は、Syl Johnson(シル・ジョンソン)の「Different Strokes」(1967年)です。
こちらはサンプリング史の超定番中の定番。冒頭のドラムと声ネタは数えきれないほどの曲で使われてきた、ブレイクビーツの金字塔です。「皇帝」を名乗る男の土台に、ヒップホップの王道中の王道が置かれている。タイトルに映画『ラストエンペラー』の音楽が使われているわけではない、というのも面白いところですね。
Syl Johnson - Different Strokes
K DUB SHINE / 機能停止
続いては、ソロとしての出発点の曲。1996年の伝説的イベント「さんピンCAMP」で披露された1曲で、K DUB SHINE自身はこのイベントの発起人の一人でもありました。
K DUB SHINE - 機能停止
David Axelrod - A Divine Image
元ネタは、David Axelrod(デヴィッド・アクセルロッド)の「A Divine Image」(1969年)です。
はい、アクセルロッドです。前回のDJ KRUSH編の「The Warnings」に続いて、まさかの2回連続登場。ドラムの音作りでサンプリング史を変えたこの人のレコードは、日本の作り手たちの棚にも共通して並んでいるんでしょうね。
ちなみにネタ帳では、この曲のリミックス版にはまた別の元ネタが登録されています。同じ曲でもバージョンで土台が変わる。掘りがいのあるレコードは、使い回し方まで何通りもあるんです。
David Axelrod - A Divine Image
K DUB SHINE / 禁じられた遊び
1998年の1stシングルからは、この曲を。「禁じられた遊び」というタイトルに、この元ネタの組み合わせは出来すぎています。
(ここに貼る音源は、元ネタ使いがタイトルに明示されたリミックス版の音源です)
K DUB SHINE - 禁じられた遊び
Sade - The Sweetest Taboo
元ネタは、Sade(シャーデー)の「The Sweetest Taboo」(1985年)。「最も甘いタブー」。つまり「禁じられた遊び」とほぼ同じ意味のタイトルなんです。
硬派で知られるK DUB SHINEが、Sadeの妖しいムードをどう取り込んだか。タイトル同士の呼応まで含めて楽しめる1曲です。
Sade - The Sweetest Taboo
K DUB SHINE / サタデーラブ
打って変わって、こんな甘い選曲もあります(K DUB SHINE側の音源は今回はテキストのみで紹介します)。
Luther Vandross - Any Love
元ネタは、ソウルの大歌手Luther Vandross(ルーサー・ヴァンドロス)の「Any Love」(1988年、同名アルバムの表題曲)です。
社会派で硬派なイメージの強いK DUB SHINEのネタ帳に、ルーサーの極上のラブソングが入っている。このギャップが、掘る人の懐の深さを物語っている気がします。
Luther Vandross - Any Love
K DUB SHINE / 今の世の中 feat. ケンタS
2009年の配信曲で、楽曲そのものの物語がひときわ重い1曲です。事件で他界した高校生ラッパー、ケンタSの生前の録音をもとに、DJ OASISと共に制作されました。
K DUB SHINE - 今の世の中 feat. ケンタS
Anita Ward - You Lied
元ネタは、Anita Ward(アニタ・ワード)の「You Lied」です。
Anita Wardと言えば、ディスコ名曲「Ring My Bell」(1979年)で知られる歌手。その人の哀切な1曲が、この曲の土台になっています。届けたいメッセージがある曲ほど、土台選びにも気持ちが入るんだと思います。
Anita Ward - You Lied
K DUB SHINE / 説明不要
1998年のミニアルバム『説明不要』と同名の曲を。多くを語らないタイトルが、いかにもK DUB SHINEらしいですよね。
K DUB SHINE - 説明不要
Eugene McDaniels - Unspoken Dreams of Light
元ネタは、Eugene McDaniels(ユージン・マクダニエルズ)の「Unspoken Dreams of Light」(1970年)です。
McDanielsは、Roberta Flackで大ヒットした「Feel Like Makin' Love」の作曲者としても知られる、ソウル/ジャズの重要人物。「説明不要」というタイトルに、語られざる夢の歌。タイトルの呼応は偶然かもしれませんが、こういう符合は掘っていて一番楽しい瞬間です。
Eugene McDaniels - Unspoken Dreams of Light
K DUB SHINE / エピローグ
最後は『現在時刻』の最終曲(13曲目)を。2曲目の「ラストエンペラー」と対になって、アルバムの締めを担う曲です(こちらもK DUB SHINE側はテキストのみで紹介します)。
Stanley Clarke & George Duke - Never Judge a Cover by Its Book
元ネタは、Stanley Clarke(スタンリー・クラーク)&George Duke(ジョージ・デューク)の「Never Judge a Cover by Its Book」。フュージョン界の大物2人によるプロジェクト、The Clarke/Duke Project(1981年)の1曲です。
「表紙で中身を判断するな」という意味のタイトル。見かけで判断するな、というメッセージは、K DUB SHINEがずっと歌ってきたこととも響き合う気がします。アルバムの最後にこのネタを持ってくる構成も見事です。
Stanley Clarke & George Duke - Never Judge a Cover by Its Book
最後に
今回のK DUB SHINEの元ネタは、Ronnie Foster、Syl Johnson、David Axelrod、Sade、Luther Vandross、Anita Ward、Eugene McDaniels、Stanley Clarke & George Dukeという布陣でした。
印象的だったのは、硬派なイメージの裏にある選曲の幅広さと、タイトル同士の呼応の多さ。Sadeの「最も甘いタブー」から「禁じられた遊び」へ、という流れは、サンプリングが単なる音の流用ではなく発想の連鎖なんだと改めて思わせてくれます。
K DUB SHINEと言えば、DEV LARGEとのビーフ(当サイトのビーフ年表にまとめ記事があります)も外せないエピソード。元ネタと合わせて読むと、この人の「思想のラップ」の輪郭がより見えてくるはずです。
ネタ帳には「独り事」(The Glass House)や「理由」(Johnny Bristol)など、まだ紹介しきれていない組み合わせが残っているので、K DUB SHINE編もいずれ後編をやりたいところです。
ではまた次の元ネタを探せ!でお会いしましょう!