HIPHOPはサンプリングのカルチャーだとよく言われますよね!
まずは最近聴き始めた人のためにサンプリングとは何かを簡単におさらいしましょう。
既存(過去)の音源から音(ベース音等)や歌詞の一部分を抜粋し、同じパートをループさせたり継ぎ接ぎするなど曲の構成を再構築することで名目上別の曲を作り出す手法のこと。
-サンプリング wikipediaより引用
要するに"過去の名曲のエッセンスを継承し、新しい音楽として蘇らせる"魔法のような手法ですね。
「パクリじゃないの?」なんて野暮なことは言わせません。そこには元の作品への強烈な"リスペクト"と、それをどう調理するかという"センス"が問われる、HIPHOPの根幹をなすアートフォームなんです。
この記事では、さまざまなアーティストの「元ネタ(サンプリングソース)」を探っていきます。
「この渋いベース、実は70年代のソウルだったのか!」とか「このフレーズ、あの大ネタと同じじゃん!」といった発見は、音楽を聴く楽しさを何倍にもしてくれます。
ってことで、第21回目はMUROの元ネタを探っていきましょう!
「King Of Diggin'(掘る王様)」。この連載にとって、これ以上の適任はいないんじゃないでしょうか。
1987年にDJ KRUSHらとKRUSH POSSEを結成し、1992年にはMICROPHONE PAGERを結成。ミックステープでシーンの掘り方そのものを変えてしまった、日本が世界に誇るDJ/プロデューサーです。MCたちの曲を掘ってきたこの連載でも、今回は「作り手のネタ帳」を開く回になります。
レコードを掘る王様は、自分の曲に何を仕込んできたのか。今回はその中から7曲を紹介します!
MUROの曲を元ネタと比較してみましょう
MURO / Street Life
まずはソロの出発点。1994年にDJ MURO名義で発売された、ソロ第1弾シングルです。
MURO - Street Life
Richard "Groove" Holmes - No Trouble on the Mountain
元ネタは、オルガンの名手Richard "Groove" Holmes(リチャード・"グルーヴ"・ホームズ)の「No Trouble on the Mountain」です。
名前の通りグルーヴの塊のようなオルガン・ジャズで、この温かくて太い音が「Street Life」の土台になっています。ソロの第一歩から、選ぶネタがもう完全に「分かっている人の棚」なんですよね。
Richard "Groove" Holmes - No Trouble on the Mountain
MURO / 第三段落 97ページ
続いてはこの看板曲。1997年のシングル「DAI SAN DANRAKU 97 PAGE」に対応する1曲で、ネタ帳の登録は2件あります。
MURO - DAI SAN DANRAKU 97 PAGE
Herbie Hancock - Trust Me
1つ目の元ネタが、ジャズ界の巨人Herbie Hancock(ハービー・ハンコック)の「Trust Me」(1979年)です。
元ネタ側の知名度で言えば今回の候補の中でもトップクラス。その巨人の曲を、自分の看板曲の土台に据える度胸とセンスです。
Herbie Hancock - Trust Me
Dorothy Ashby - Drink
もう1つが、ジャズハープの奏者Dorothy Ashby(ドロシー・アシュビー)の「Drink」(1970年、アルバム『The Rubaiyat of Dorothy Ashby』収録)です。
ハープという、ヒップホップでは珍しい楽器の音色をネタに持ってくる引き出しの広さ。しかもこの「Drink」は、MICROPHONE PAGERの代表曲「XXX-LARGE」の元ネタでもあります。グループ時代から同じネタを掘り続けているというのが、後半の曲でも効いてきます。
Dorothy Ashby - Drink
MURO / K.M.W.(KING MOST WANTED)
1999年、メジャー第1弾ミニアルバム『K.M.W. (King Most Wanted)』のタイトル曲です。「King Of Diggin'」の名乗りが、そのまま作品の顔になった1曲ですね。
MURO - K.M.W.
Dee Felice Trio - Nightingale
元ネタは、Dee Felice Trio(ディー・フェリス・トリオ)の「Nightingale」です。
サンプリングの資料でもそう頻繁には名前の挙がらない、掘り下げたところからの選出。看板を掲げた曲の土台に、簡単には見つからないネタを持ってくるあたりが「掘る王様」の面目躍如だと思います。
Dee Felice Trio - Nightingale
MURO / 11154
2000年、初のフルアルバム『PAN RHYTHM: Flight No.11154』の顔となる曲です。タイトルの数字は、アルバムの「フライト番号」のコンセプトそのものですね。
MURO - 11154
Gap Mangione - Diana in the Autumn Wind
元ネタは、Gap Mangione(ギャップ・マンジョーネ)の「Diana in the Autumn Wind」(1970年)。フリューゲルホルンの名手Chuck Mangioneの兄による、浮遊感のあるエレピの名曲です。
空を飛ぶアルバムのコンセプトに、この浮遊感。ネタ選びがコンセプトと地続きになっているのが分かります。
Gap Mangione - Diana in the Autumn Wind
MURO / Pan Rhythm
同じく『PAN RHYTHM: Flight No.11154』から、タイトル曲をもう1曲。
MURO - Pan Rhythm
Gene Harris - Everything Must Change
元ネタは、ブルーノート系のピアニスト、Gene Harris(ジーン・ハリス)の「Everything Must Change」です。
この曲自体はもともと多くの歌手に歌われてきたスタンダードで、元ネタ側の格も十分。MUROのジャズ/ソウルジャズへの傾倒が、そのまま表れた選曲だと思います。
Gene Harris - Everything Must Change
MURO / Chain Reaction
2003年のミニアルバム『CHAIN REACTION』のタイトル曲は、UZI、DELI、Q、BIGZAM、TOKONA-X、GORE-TEXらが次々とマイクを回すポッセカットです。
MURO - Chain Reaction
Don Baron - Action
その土台になっているのが、Don Baronの「Action」という12インチ・シングルの曲です。
元ネタ側はかなりマイナーで、こういう「誰が見つけてくるんだ」というネタをタイトル曲の土台にしてしまうのが、この人の掘りの深さ。豪華なマイクリレーの下で、静かに効いている1曲です。
Don Baron - Action
MURO / XXX-LARGE PART 2
最後は、MICROPHONE PAGERの代表曲「XXX-LARGE」の系譜を受け継ぐソロ曲です。この曲自体の音源は動画サイトでは見つからなかったので、元ネタだけ置いておきます。
Dorothy Ashby - Wine
元ネタは、またもDorothy Ashbyの「Wine」です。
「第三段落 97ページ」で紹介した「Drink」と合わせると、「お酒つながり」の2曲を、同じハーピストのレコードから掘ってきていることになります。こういう小さな符合に気づけるのが、ネタ帳をめくる楽しさなんですよね。
Dorothy Ashby - Wine
最後に
今回のMUROの元ネタは、Richard "Groove" Holmes、Herbie Hancock、Dorothy Ashby(2曲)、Dee Felice Trio、Gap Mangione、Gene Harris、Don Baronという布陣でした。
巨人のジャズから、資料にも載らないようなマイナー盤まで。「King Of Diggin'」という名は伊達じゃないことを、ネタ帳がそのまま証明してくれました。
なお、ネタ帳にはMICROPHONE PAGER名義の登録もたっぷり残っています。MUROがTWIGYと組んだグループ編も、いずれ取り上げたいところです。
ではまた次の元ネタを探せ!でお会いしましょう!