HIPHOPはサンプリングのカルチャーだとよく言われますよね!
まずは最近聴き始めた人のためにサンプリングとは何かを簡単におさらいしましょう。
既存(過去)の音源から音(ベース音等)や歌詞の一部分を抜粋し、同じパートをループさせたり継ぎ接ぎするなど曲の構成を再構築することで名目上別の曲を作り出す手法のこと。
-サンプリング wikipediaより引用
要するに"過去の名曲のエッセンスを継承し、新しい音楽として蘇らせる"魔法のような手法ですね。
「パクリじゃないの?」なんて野暮なことは言わせません。そこには元の作品への強烈な"リスペクト"と、それをどう調理するかという"センス"が問われる、HIPHOPの根幹をなすアートフォームなんです。
この記事では、さまざまなアーティストの「元ネタ(サンプリングソース)」を探っていきます。
「この渋いベース、実は70年代のソウルだったのか!」とか「このフレーズ、あの大ネタと同じじゃん!」といった発見は、音楽を聴く楽しさを何倍にもしてくれます。
ってことで、第19回目はZEEBRAの元ネタを探っていきましょう!
この連載の第2回ではキングギドラを取り上げましたが、今回はその中心人物のソロ編です。1993年にキングギドラを結成し、日本語で韻を踏むということを根本から作り直してしまった男。そのキャリアの出発点からして筋金入りのヘッズで、ソロになってからも「どのネタを選ぶか」に彼の美学が全部出ている気がします。
キングギドラで土台を作った男が、ソロで何をサンプリングしてきたのか。今回はその中から7曲を紹介します!
ZEEBRAの曲を元ネタと比較してみましょう
ZEEBRA / 真っ昼間
まずはソロの出発点、1997年のデビューシングルです。
真夏の真っ昼間、だらっとした暑さの中を歩く感じ。この浮遊感のあるトラックが、実は2つのネタでできているのが面白いところです。
真っ昼間 / ZEEBRA
Johnny Hammond - Call On Me
1つ目の元ネタが、Johnny Hammond(ジョニー・ハモンド)の「Call On Me」。1974年のアルバム『Gambler’s Life』収録で、プロデュースはMizell兄弟というジャズファンクの名コンビです。
このゆるくて温かい質感が、真っ昼間の空気の土台になっているんですね。
Johnny Hammond - Call On Me
Monty Alexander - Love and Happiness
そしてもう1つが、ジャマイカ出身のピアニスト、Monty Alexander(モンティ・アレクサンダー)の「Love And Happiness」。1974年のアルバム『Rass!』収録で、元はAl Greenの名曲のカバーです。
レゲエの揺れをまとったこの演奏は超が付くほどの有名ネタで、Pete RockやQ-Tip、The BeatnutsといったUSの名プロデューサーたちもトラックの土台に使ってきました。ソロデビューの1曲目から、USの職人たちと「同じ棚」からネタを引いてくる。この時点でZEEBRAのディグの深さは証明されていたと思います。
Monty Alexander - Love and Happiness
ZEEBRA / I'm Still No.1
続いては、1stアルバム『THE RHYME ANIMAL』(1998年)の顔とも言えるこの曲。
「まだNo.1だ」と言い切る自己紹介ソングですが、タイトルからしてBoogie Down Productionsの「I'm Still #1」への系譜を感じますよね。
ZEEBRA - I'm Still No.1
The Mohawks - The Champ
その元ネタが、The Mohawks(ザ・モホークス)の「The Champ」(1968年)です。
「オーケー、ヒア・ウィー・ゴー!」の掛け声で始まるこの曲は、レーベル公式の説明でも「世界で最もサンプリングされてきた曲の1つ」と書かれている、ヒップホップ定番ネタ中の定番。No.1を名乗る曲の土台に、No.1級のネタを持ってくる。この選び方自体がメッセージになっているのが最高です。
The Mohawks - The Champ
ZEEBRA / Parteechecka
『THE RHYME ANIMAL』からはもう1曲、パーティーチューンの代表格です。埋め込みはリミックス版の公式MVでどうぞ。
ZEEBRA - Parteechecka
Bob James - Tappan Zee
元ネタの1つが、フュージョンの鍵盤奏者Bob James(ボブ・ジェームス)の「Tappan Zee」。1977年のアルバム『BJ4』収録です。
タイトルはハドソン川にかかる橋の名前で、後にBob James自身のレーベル名にもなりました。Arrested Developmentの「People Everyday」でも使われている、サンプリングの王道ど真ん中の1曲ですね。
Bob James - Tappan Zee
Marcus Miller - Brazilian Rhyme
もう1つの元ネタが、ベーシストMarcus Miller(マーカス・ミラー)の「Brazilian Rhyme」。1995年のアルバム『Tales』収録で、こちらはEarth, Wind & Fireの同名曲のカバーです。
つまりこの曲、元ネタの片方はさらに別の元ネタを持っている「孫ネタ」構造。パーティーの現場で体を揺らすための曲に、こういう仕掛けが潜んでいるのがサンプリングの面白さです。
Marcus Miller - Brazilian Rhyme
ZEEBRA / Jackin' 4 Beats
これはこの連載的にも外せない1曲です。2008年のベストアルバム『The Anthology』に収録された新曲で、なんと元ネタが全部、日本語ラップの名曲なんです。
Zeebra - Jackin' 4 Beats
日本語ラップ・クラシック大集合
ネタ帳の登録では、BUDDHA BRAND「人間発電所」、RHYMESTER「B-BOYイズム」、LAMP EYE「証言」、Microphone Pager「病む街」、OZROSAURUS「AREA AREA」、SOUL SCREAM「蜂と蝶」、DABO「拍手喝采」、YOU THE ROCK★「FUKUROU」、大神「大怪我」、ラッパ我リヤ「Do the GARIYA thing」という10曲に、土台のThe Honey Drippers「Impeach the President」を加えた11曲分が登録されています。各曲を8小節ずつつないで、その曲のフレーズや韻まで引用してしまうという離れ業です。
ZEEBRA自身、「さんピンCAMPの空気感を甦らせたかった」と語っています。自分が作ってきたシーンそのものをサンプリングする。これ以上HIPHOPな発想ってなかなかないですよね。
代表として、この連載の第17回でも取り上げた「人間発電所」を置いておきます。第17回と聴き比べると話がつながりますよ。
BUDDHA BRAND - 人間発電所
ZEEBRA / PLAYER'S DELIGHT(ZBR-5000 mix)
TWIGYとDEV-LARGEを迎えたこの曲は、タイトルを見た瞬間にピンとくる人も多いはず。
ZEEBRA - PLAYER'S DELIGHT
Chic - Good Times
元ネタはChic(シック)の「Good Times」(1979年)です。
このベースラインは、Sugarhill Gang「Rapper's Delight」の土台として使われたことで、ヒップホップの創世記そのものを支えたフレーズとして知られています。その曲に「PLAYER'S DELIGHT」と名付けて乗り込むこと自体が、歴史へのリスペクト表明になっている。タイトルの付け方まで含めてサンプリングなんですよね。
Chic - Good Times
ZEEBRA / Perfect Queen
硬派なイメージの強いZEEBRAですが、この曲は当時の妻・中林美和さんへのプロポーズ代わりに作られたというラブソング。MVにも中林さんが出演しています。
ZEEBRA - Perfect Queen
Roger - I Want to Be Your Man
元ネタはRoger(ロジャー)の「I Want to Be Your Man」。Zappの中心人物としてトークボックスを世に広めた人の代表曲で、シングルのクレジットにも、この曲のサンプリングとRoger Troutmanらの作詞・作曲であることが明記されています。
あの独特の「機械の声」の甘さが、プロポーズの曲の土台になっている。選曲のセンスが憎いです。
Roger - I Want to Be Your Man
ZEEBRA / Touch the sky
最後は、3rdアルバム『TOKYO'S FINEST』(2003年)からこの曲を。MVがMTV Video Music Awards Japan 2004で最優秀ヒップホップビデオ賞を受賞した、華のある1曲です。
Zeebra - Touch the sky
Level 42 - Something About You
元ネタは、イギリスのバンドLevel 42の「Something About You」(1985年)。公式MVの説明欄にも、サンプリングのクレジットがはっきり明記されています。
きらめくような80年代ポップの質感を、そのまま空へ抜けるような開放感に変換してしまう。USのソウルやファンクだけじゃなく、UKポップまで棚に入っているのがZEEBRAのネタ選びの広さだと思います。
Level 42 - Something About You
最後に
今回のZEEBRAの元ネタは、Johnny Hammond、Monty Alexander、The Mohawks、Bob James、Marcus Miller、日本語ラップのクラシック10曲、Chic、Roger、Level 42という布陣でした。
デビュー曲から二重ネタ、No.1宣言にはNo.1級の定番ネタ、そして自分たちのシーンそのものを切り刻んだ「Jackin' 4 Beats」。キングギドラ編(第2回)と合わせて読むと、「日本語ラップの土台を作った男は、世界の名曲の土台の上に立っていた」という当たり前で一番大事なことが見えてきます。
ネタ帳にはまだ「ウィークエンド」(Kool & the Gang「Ladies Night」)や「視点」(Isaac Hayes「Breakthrough」)など面白い組み合わせが残っているので、ZEEBRA編はいずれ後編もやりたいところです。
ではまた次の元ネタを探せ!でお会いしましょう!