2011年5月、デビューから1年も経たない21歳の新人RAU DEFが、日本語ラップの王者Zeebraにディス曲を放った。Zeebraは翌日にアンサーで応じ、応酬はわずか数日で幕を閉じた。だがこのビーフの本当の結末は、4年後の握手と、6年後の共演曲まで待たなければならなかった。「若手が王者に挑み、王者が応じ、最後は曲で終わる」――ビーフの理想的な物語として語られる一件である。
| 当事者 | RAU DEF × Zeebra |
|---|---|
| 勃発 | 2011年5月、RAU DEFが「KILLIN EM!」を発表 |
| 発端 | 個人的な遺恨ではなく、ビーフという文化への挑戦だったと所属レーベルが説明 |
| 応酬 | ディス1曲→アンサー1曲→再アンサー1曲(数日で完結) |
| 決着 | 2015年に共演・握手で和解を公表。2017年、Zeebraの曲のリメイクに本人が参加し「曲で決着」 |
| 型 | 楽曲応酬型(挑戦型) |
発端――21歳の宣戦布告
RAU DEFは1989年生まれ、千葉県市川市出身。PUNPEEらとの出会いを経て、2010年9月にアルバム『ESCALATE』でデビューした新進のMCである。そのRAU DEFが2011年5月、宣戦布告の投稿とともに、Zeebraへのディス「KILLIN EM!」を発表した。相手は説明不要の第一人者である。なぜ王者に挑んだのか。所属レーベルSUMMITは当時、RAU DEF自身はZeebraに否定的な感情を持っているわけではなく、ビーフをヒップホップ文化の一つとして楽しむために発表した、という趣旨の説明をしていた。「売名」「下剋上」と受け取る向きもあったが、少なくとも表向きの理由は、個人的な恨みではなく文化としての挑戦だった。RAU DEFは、応じてくれたZeebraへの感謝の投稿もしている。
王者の回答――翌日の「Die By The Beef」

Zeebraは逃げなかった。翌日、午前3時という時刻とともに、アンサーソング「Die By The Beef」を発表した。デビューしたての若手の挑発に、日本語ラップの顔が24時間以内に曲で返す。この即応こそが、このビーフを伝説にした最大の要素である。同時にZeebraは、これ以上は返さない意向も示した。相手に注目という「餌」を与え続けることはしない、という王者の線引きだった。これに対してRAU DEFは2日後、「TRAP OR DIE」で再びアンサーを返した。応酬はここで終わる。
| 日付 | 誰→誰 | 楽曲・媒体 | 要点 |
|---|---|---|---|
| 2011年5月 | RAU DEF → Zeebra | 「KILLIN EM!」/Twitter等で発表 | 宣戦布告の投稿とともに公開された、新人から王者へのディス |
| 2011年5月(翌日) | Zeebra → RAU DEF | 「Die By The Beef」 | 翌日・午前3時の即応アンサー。あわせて「これ以上は返さない」意向も表明 |
| 2011年5月(その2日後) | RAU DEF → Zeebra | 「TRAP OR DIE」 | RAU DEFの再アンサー。応酬はここまで |
| 2015年8月11日 | Zeebra ⇔ RAU DEF | Ustream「GRAND MASTER SHOW」での共演 | SKY-HIを通じて公の場で共演し握手。和解を公表 |
| 2017年9月27日 | RAU DEF feat. Zeebra(イントロ) | 「HYPATECH」/アルバム『UNISEX』 | Zeebra「SUPATECH (what's my name?)」のリメイクに本人が参加 |
※「KILLIN EM!」の発表日は、資料により5月18日・19日と1日の揺れがあるため、応酬表では月単位で記載した。
その後――ビーフの代償と、SKY-HIの橋渡し
応酬はRAU DEFの名を一気に広めたが、その後の道のりは平坦ではなかった。悪評や人間関係の難しさに直面する時期があり、2012年5月にSUMMITを離れると、活動は停滞していく。転機は2015年、地元の先輩でもあるSKY-HIが手を差し伸べたことだった。RAU DEFはSKY-HIのレーベルBULLMOOSEに加わり、復帰作『ESCALATE II』を発表する。その過程で実現したのが、Zeebraとの和解である。2015年8月11日、Ustreamで公開された「GRAND MASTER SHOW」で、SKY-HIを通じて二人は公の場で共演し、握手を交わして和解を公表した。SKY-HIは、Zeebra本人からビーフ解消を公式に宣言してもらったと報告している。
曲で始めたものは、曲で終わらせる――「HYPATECH」

RAU DEFには、握手だけでは終われない理由があった。「曲で始めたものは、曲で終わらせたい」。その答えが、Zeebraの代表曲「SUPATECH (what's my name?)」(2003年)のリメイク、「HYPATECH」である。2017年9月27日発売のアルバム『UNISEX』に「HYPATECH - introduced by Zeebra」として収録され、イントロにはZeebra本人も参加した。挑戦された側が、挑戦者のアルバムの中で自分の代表曲のリメイクに声を貸す。ビーフの終わらせ方として、これ以上の形はなかなか思いつかない。
RAU DEF「HYPATECH - introduced by Zeebra」はApple Musicで聴ける。※本記事のApple Musicリンクはアフィリエイトリンクです。
音源について
2011年の応酬3曲はTwitter等を通じて公開されたWeb音源であり、公式のYouTube音源や公式配信は確認できなかったため、本記事ではリンクを置いていない。
このビーフの位置づけ
この一件が特別なのは、勝敗ではなく「応酬の作法」がすべて詰まっているからである。若手は実名で挑み、王者は翌日に曲で応じ、線を引くべきところでは引き、そして数年の時を経て握手と共演で閉じた。Zeebraが無名の若手の挑発を無視しなかったことは、王者としての度量であると同時に、ビーフという文化への回答だった。RAU DEFにとっては、キャリアの最大の転機であると同時に、その後の苦悩と復帰の物語の起点でもある。
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出典・確認日
本記事の事実関係は、Wikipedia「Zeebra」のRAU DEFに関する記述、DjtubeのRAU DEFプロフィール、ORICONのRAU DEF『UNISEX』収録曲情報を中心に、2026年11月3日に確認した。発表日には資料間で1日の揺れがあるため、本文では月単位を基本とし、その旨を注記した。
