日本のビーフの「原型」は、誌面のインタビューから始まった。1999年、札幌のTHA BLUE HERBがヒップホップ専門誌のインタビューでRHYMESTERを名指しで批判し、2001年から2002年にかけて、両者は正規のシングルとアルバムの収録曲だけで応酬した。そして24年後の2023年、Mummy-DとILL-BOSSTINOは互いの作品に客演し合う形で和解を刻んだ。
| 当事者 | Mummy-D(RHYMESTER) × BOSS THE MC(ILL-BOSSTINO/THA BLUE HERB) |
|---|---|
| 勃発 | 1999年、専門誌「blast」のインタビューでの名指し批判。楽曲の応酬は2001年「ウワサの真相」から |
| 発端 | 東京中心のシーンと、メジャー/アンダーグラウンドの美学をめぐる対立 |
| 応酬 | 正規音源のみ、計3曲とされる。「共に正規音源で行われたビーフとしては日本初」とも言われる |
| 決着 | 2023年、互いの作品への客演(「STARTING OVER」「同じ月を見ていた」)による和解 |
| 型 | 楽曲応酬型(誌面発端) |
発端は、札幌でのインタビューだった

THA BLUE HERBは1997年、札幌でBOSS THE MC(外部名義はILL-BOSSTINO)とO.N.Oによって結成された。1stアルバム『STILLING, STILL DREAMING』(1998年)は、東京を中心に形成されるシーンへの痛烈な批判を含み、DJ KRUSHがライブで盛んにプレイしたことで全国のヘッズの耳目を集めた。1999年、ヒップホップ専門誌「blast」が札幌で初めてTHA BLUE HERBの単独インタビューを行い、その中でBOSSはRHYMESTERとYOU THE ROCK★を名指しで批判した。これがきっかけとなり、騒動は「ビーフ」と呼ばれるようになった。
正規音源だけの応酬
楽曲での応酬は、ネットでもライブでもなく、公式リリースの中で行われた。2001年12月19日発売のRHYMESTERのシングル「ウワサの真相」で、Mummy-Dが様々な形容でTHA BLUE HERBを挑発した。翌2002年5月22日、THA BLUE HERBはアルバム『SELL OUR SOUL』を発売し、「サイの角のようにただ独り歩め」「SHINE ON YOU CRAZY DIAMOND」でアンサーを返した。楽曲を通じたやり取りは、この計3曲にとどまるとされる。
派手な応酬ではなかったが、その意味は大きかった。Wikipediaはこの一連のやり取りを「共に正規音源で行われたビーフとしては日本初であったとも言われる」と記している。背景にあったのは、東京一極集中への地方からの反発と、ヒップホップをどう届けるかをめぐる美学の違いだった。宇多丸は後年、TBSラジオで「憎くてぶつかっていたというより、本当にライバル関係」「必要なプロセスだった」と振り返っている。
| 日付 | 誰→誰 | 楽曲・媒体 | 要点 |
|---|---|---|---|
| 1999年 | BOSS THE MC → RHYMESTERほか | 専門誌「blast」インタビュー | 札幌での単独インタビューでRHYMESTERとYOU THE ROCK★を名指しで批判 |
| 2001年12月19日 | Mummy-D → THA BLUE HERB | RHYMESTER「ウワサの真相」 | シングル収録曲の中でTHA BLUE HERBを挑発 |
| 2002年5月22日 | THA BLUE HERB → RHYMESTER | 『SELL OUR SOUL』 | 「サイの角のようにただ独り歩め」「SHINE ON YOU CRAZY DIAMOND」でアンサー |
| 2023年4月12日 | tha BOSS feat. Mummy-D | 「STARTING OVER」 | 和解の先行曲。BOSSのアルバム『IN THE NAME OF HIPHOP II』に収録 |
| 2023年5月31日 | Mummy-D feat. ILL-BOSSTINO | 「同じ月を見ていた」 | Mummy-Dの人生初のソロシングルとして発売され、"歴史的共演"と話題に |
24年後、「同じ月を見ていた」

和解は、2023年に2曲の共演で示された。まずtha BOSSのアルバム『IN THE NAME OF HIPHOP II』(2023年4月12日)に「STARTING OVER feat. Mummy-D」が収録され、続いてMummy-Dが人生初のソロシングルとして「同じ月を見ていた feat. ILL-BOSSTINO」(プロデュース:DJ WATARAI)を発売した。TBSラジオ「アフター6ジャンクション」(2023年6月1日放送)でMummy-Dと宇多丸はこの共演を語り、ステージでBOSSが感極まりかけたエピソードも明かされている。Mummy-Dは「この瞬間のためにいろいろあったのかな」と振り返った。「同じ月を見ていた」は、Mummy-Dのソロアルバム『Bars of My Life』(2024年)にも収録されている。
tha BOSS「STARTING OVER feat. Mummy-D」公式MV(THA BLUE HERB RECORDINGS)
Mummy-D「同じ月を見ていた feat. ILL-BOSSTINO」をApple Musicで聴く
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このビーフの位置づけ
応酬が正規音源の中で完結し、決着まで24年を要したこの一件は、日本のビーフの「古典」にあたる。東京と地方、メジャーとアンダーグラウンドという、日本語ラップが抱え続けてきた構図そのものが争点であり、和解の形もまた「互いの代表作に声を重ねる」という最もヒップホップらしいものだった。なお、同じインタビューで名指しされたYOU THE ROCK★についても、後にTHA BLUE HERBがそのアルバムをプロデュースする関係にまで至っている。
音源について
当時の応酬曲(「ウワサの真相」の該当曲、「SHINE ON YOU CRAZY DIAMOND」等)の公式YouTube動画は確認できなかったため、本記事では和解後の「STARTING OVER」公式MVの埋め込みと、「同じ月を見ていた」のApple Musicリンクのみを掲載した。
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出典・確認日
本記事の事実関係は、Wikipedia「THA BLUE HERB」、SAPPORO POSSEの特集「RHYMESTER vs THA BLUE HERB、BEEFと和解の記録」、TBSラジオ「アフター6ジャンクション」(2023年6月1日放送)の内容、OTOTOYの作品情報を中心に、2026年11月3日に確認した。
