2023年秋、日本のヒップホップシーンで大規模な衝突が起きた。発端はイベントのアフターパーティでの争いであり、フェスのステージ裏での騒動を経て、年末には複数のディス曲がチャートを賑わせる応酬へと発展した。中心にいたのは、解散を控えたBAD HOPのYZERRと、舐達麻のBADSAIKUSHである。なお、現場の経緯については主にYZERR本人の説明に基づく報道が中心で、相手側の説明とは異なる可能性がある。本記事は勝敗の判定を行わず、確認できた経緯を時系列で記録する。
| 当事者 | YZERR(BAD HOP) × BADSAIKUSH(舐達麻)――周辺にRYKEYDADDYDIRTY、ジャパニーズマゲニーズ、阿修羅MIC |
|---|---|
| 勃発 | 2023年9月23日、「THE HOPE 2023」アフターパーティでの争い |
| 発端 | アフターパーティでのRYKEYとYZERRの争いに端を発する一連の騒動。YZERRは、2019年のディス曲に客演していたBADSAIKUSHへの不信感を理由の一つとして説明している |
| 応酬 | 舐達麻「FEEL OR BEEF BADPOP IS DEAD」、ジャパニーズマゲニーズ「I guess I'm beefin'」に対し、YZERRが「guidance」で応じた |
| 決着 | 公式な和解は確認できていない。BAD HOPは2024年2月19日に解散した |
| 型 | 現場発端型+楽曲応酬型 |
発端――アフターパーティと「AH1」
YZERRの説明として報じられた経緯はこうだ。2023年9月23日、ヒップホップイベント「THE HOPE 2023」のアフターパーティに、以前からYZERRに因縁をつけていたRYKEYDADDYDIRTYが現れ、両者の間で争いが起きた。そこへジャパニーズマゲニーズの孫GONGが割って入り、仲裁に入った阿修羅MICと、駆けつけたYZERRの双子の兄T-Pablowの間でも衝突があったという。
約1か月後の10月22日、愛知で開かれたフェス「AH1」で、YZERRがBADSAIKUSHに掴みかかる騒動が発生した。舐達麻はここまでの争いとは直接の関係がないように見えたが、BADSAIKUSHは2019年にRYKEYが発表したYZERRへのディス曲「You Can Get Again」に客演しており、裏でRYKEYをけしかけていたと考えるYZERRの怒りが爆発した、というのがYZERRの説明である。騒動の結果、ヘッドライナーだったBAD HOPの出演はキャンセルになった。10月24日、YZERRはInstagramでライブ配信を行い、5万人を超える視聴者に経緯を説明するとともに、観客と主催者へ謝罪した。
| 日付 | 誰→誰 | 楽曲・媒体 | 要点 |
|---|---|---|---|
| 2023年9月23日 | RYKEY × YZERR(ほか) | 「THE HOPE 2023」アフターパーティ | 争いが発生。仲裁に入った阿修羅MICとT-Pablowの間でも衝突(YZERRの説明による) |
| 2023年10月22日 | YZERR → BADSAIKUSH | フェス「AH1」(愛知) | YZERRがBADSAIKUSHに掴みかかる騒動。BAD HOPの出演はキャンセルに |
| 2023年10月24日 | YZERR | Instagramライブ配信 | YZERRが経緯を説明し、観客と主催者へ謝罪 |
| 2023年11月 | 阿修羅MIC | 「UNTITLED」 | 騒動に言及した楽曲を発表 |
| 2023年12月1日 | 舐達麻 → BAD HOP | 「FEEL OR BEEF BADPOP IS DEAD」 | BAD HOPへのディス曲。総合チャートでもトップ10入り |
| 2023年12月 | ジャパニーズマゲニーズ → BAD HOP | 「I guess I'm beefin'」 | 「FEEL OR BEEF」と同じビートを使ったディス曲 |
| 2024年1月28日 | YZERR → 舐達麻/ジャパニーズマゲニーズ | 「guidance」 | YZERRのアンサーソング。MVがフル公開された |
「FEEL OR BEEF BADPOP IS DEAD」――チャートを動かしたディス

2023年12月1日、舐達麻は「FEEL OR BEEF BADPOP IS DEAD」を配信リリースした。BAD HOPへのディスソングとされるこの曲は、同日にミュージックビデオも公開され、ORICONのデジタルシングルチャートで週間9位、Billboard JAPANの総合チャート「JAPAN Hot 100」でも9位を記録するなど、ディス曲としては異例の広がりを見せた。なお、サンプリングをめぐっては、元ネタの楽曲側のレーベルが無許可であることを指摘する一幕もあった。BADSAIKUSH自身は、この曲について「このような曲は書きたくなかった」という趣旨の発言をしている。
舐達麻「FEEL OR BEEF BADPOP IS DEAD」(公式MV)
続く12月には、ジャパニーズマゲニーズが同じビートを使った「I guess I'm beefin'」を発表し、応酬はさらに広がった。周辺では、RYKEYDADDYDIRTYも「BUSTER CALL」を発表し、12月17日には舐達麻のライブをめぐる騒動があったことも報じられている(後に、この件でRYKEYの逮捕が報じられた)。
「guidance」――解散直前のアンサー

YZERRの応答は年を越えた。2024年1月21日、BAD HOPのラジオ番組「#リバトーク TO THE DOME」でアンサーソングの一部が先行公開され、1月28日、「guidance」のミュージックビデオがフル公開された。舐達麻とジャパニーズマゲニーズへのアンサーとされるこの曲は、ラストアルバム『BAD HOP』(2024年2月9日)に収録された。そして2月19日、BAD HOPは東京ドームでの公演をもって解散した。応酬の決着がつかないまま、片方のグループはシーンを去った形である。
このビーフの位置づけ
この一件は、2020年代の日本語ラップにおける最大級のビーフである。現場の衝突から始まり、ディス曲が総合チャートのトップ10に入り、解散を控えたグループのリーダーがアンサーで応じる――規模も経過も、過去のどのビーフとも異なる。背景には2019年以来の因縁(別記事「YZERR vs RYKEY」参照)があり、複数のクルーが入り組んだ。本記事の確認時点(2026年11月3日)で、当事者間の公式な和解は確認できていない。
音源について
YZERR「guidance」は公式ミュージックビデオが公開されているが、本記事では動画の埋め込みを確認できた「FEEL OR BEEF BADPOP IS DEAD」のみを掲載した。
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出典・確認日
本記事の事実関係は、ぴあ音楽の報道(YZERR本人の説明、AH1での出演キャンセル、「guidance」公開の経緯)、ねとらぼの報道、Wikipedia「FEEL OR BEEF BADPOP IS DEAD」(リリース日・チャート成績・関係楽曲の日付)、ORICONニュース(「guidance」MV公開とYouTubeチャート)を中心に、2026年11月3日に確認した。現場の経緯はYZERR側の説明に基づく部分が大きく、本文中でその旨を明記した。
