日本語ラップの元ネタを探せ! 第11回 いとうせいこう 編!!!

HIPHOPはサンプリングのカルチャーだとよく言われますよね!

まずは最近聴き始めた人のためにサンプリングとは何かを簡単におさらいしましょう。

既存(過去)の音源から音(ベース音等)や歌詞の一部分を抜粋し、同じパートをループさせたり継ぎ接ぎするなど曲の構成を再構築することで名目上別の曲を作り出す手法のこと。

-サンプリング wikipediaより引用

要するに"過去の名曲のエッセンスを継承し、新しい音楽として蘇らせる"魔法のような手法ですね。

「パクリじゃないの?」なんて野暮なことは言わせません。そこには元の作品への強烈な"リスペクト"と、それをどう調理するかという"センス"が問われる、HIPHOPの根幹をなすアートフォームなんです。

この記事では、さまざまなアーティストの「元ネタ(サンプリングソース)」を探っていきます。

「この渋いベース、実は70年代のソウルだったのか!」とか「このフレーズ、あの大ネタと同じじゃん!」といった発見は、音楽を聴く楽しさを何倍にもしてくれます。

ってことで、第11回目は日本語ラップのパイオニア、いとうせいこうの元ネタを探っていきましょう!

ラッパー、小説家、タレント、編集者…多彩な顔を持つ彼ですが、80年代後半に残した音楽作品は、日本の音楽史における「オーパーツ(場違いな工芸品)」と言えるほど高度なものでした。

特に1989年のアルバム『MESS/AGE』は、音楽的な実験精神と鋭い批評性がぶつかり合う傑作。今回はそのアルバムを中心に、彼がいかに先進的な音楽(元ネタ)を取り入れていたかを紹介します。JAZZやレアグルーヴ好きも唸る選曲です!


いとうせいこうの曲を元ネタと比較してみましょう

いとうせいこう / MESS/AGE

まずはアルバムのタイトルトラック。これから始まる「メッセージ」の重みと、混沌とした時代の空気を象徴するかのような、スリリングで不穏なトラックです。いとうせいこうのラップも、言葉を「楽器」のように扱うパーカッシブな響きを持っています。

【元ネタ】Sun Ra - Rocket Number Nine

この曲の元ネタを知った時、震えたヘッズも多いはず。サンプリングされているのは、ジャズ界の奇才、宇宙から来たと自称するSun Ra(サン・ラ)の楽曲です。

アフロ・フューチャリズムの始祖とも言えるサン・ラの、フリーキーで宇宙的なサウンドを80年代の日本のラップ・ミュージックに取り入れるセンス。これはプロデューサーであるヤン富田氏の影響も大きいでしょう。「ヒップホップ=ファンク」という定石を超え、アヴァンギャルド・ジャズまで飲み込む雑食性が凄まじいです。


いとうせいこう / Astro Groove

続いても「宇宙(Astro)」を感じさせる一曲。浮遊感のあるシンセサウンドと、心地よいリズムが絡み合う、極上のスペーシー・ヒップホップです。リリックの世界観もSF的で、どこか別の次元へ連れて行かれるような感覚になります。

【元ネタ】Sun Ra - Spontaneous Simplicity

こちらも元ネタはSun Ra(サン・ラ)!アルバム『MESS/AGE』全体に通底する「宇宙的なテーマ」は、サン・ラからの引用によって強化されています。

原曲は非常にスピリチュアルで、静謐な美しさを持つジャズ・ナンバー。この曲が持つ「神秘的なループ」を抽出することで、ラップのバックトラックとしても成立させています。激しいだけがヒップホップじゃないと教えてくれるサンプリングです。


いとうせいこう / Fake Fake Family

「偽りの家族」を描いた、いとうせいこうらしい皮肉とユーモアに満ちた一曲。コミカルなリリックとは裏腹に、バックトラックはめちゃくちゃグルーヴィーでファンキーです。

【元ネタ】Jimmy McGriff - The Bird

元ネタは、ソウル・ジャズ・オルガンの巨匠、Jimmy McGriff(ジミー・マグリフ)の「The Bird」。

60年代に流行したダンス「The Bird」をテーマにした曲で、オルガンの軽快なリフと、思わず踊り出したくなるようなビートが最高です。この「陽気なファンクネス」が、曲の持つ「家族ごっこの滑稽さ」をより一層際立たせています。


いとうせいこう / Happy Syndrome

タイトル通り、聴いているだけでハッピーになれるようなアッパーチューン。バブル時代の煌びやかさと狂騒を感じさせる、エネルギーの塊のような曲です。

【元ネタ】Armando Trovajoli - Sesso Matto

この元ネタは世界的な「大ネタ」中の大ネタ!イタリア映画音楽の巨匠、Armando Trovajoli(アルマンド・トロヴァヨーリ)によるサントラ曲「Sesso Matto」です。

Dr. DreやUsherなど、世界中のアーティストにサンプリングされている有名なブレイクビーツですが、89年の日本でこれをチョイスしていたのが流石。イタリアン・シネマ・ファンクの洒脱でセクシーなグルーヴが炸裂しています。


いとうせいこう / マイク一本

「マイク一本あればいい」。ラッパーとしての矜持を歌った、シンプルかつ力強いアンセムです。日本語ラップの黎明期にこのタイトルとこの内容。まさにクラシックと呼ぶにふさわしい一曲です。

【元ネタ】Donald Byrd - (Fallin' Like) Dominoes

バックで流れる、なんとも気持ちの良い浮遊感のあるトラック。元ネタはジャズ・トランペット奏者、Donald Byrd(ドナルド・バード)の70年代ジャズ・ファンクの名曲です。

プロデュースはマイゼル兄弟。彼ら特有の「スカイ・ハイ・サウンド」と呼ばれる、空へ抜けていくようなコーラスとメロディが、いとうせいこうのポジティブなメッセージを優しく包み込んでいます。厳しい姿勢を歌いつつも、音は最高にメロウ。このバランスが絶妙です。


いとうせいこう / 噂だけの世紀末

最後は、世紀末(当時は90年代目前)の不安と期待が入り混じったカオスな一曲。情報に踊らされる社会を風刺した歌詞は、今の時代にも通じるものがあります。

【元ネタ①】Gary Bartz NTU Troop - Dr. Follow's Dance

【元ネタ②】Kool & the Gang - I Want to Take You Higher

この曲は、複数のネタが組み合わさっています。

ベースラインやグルーヴの核となっているのは、スピリチュアル・ジャズ・ファンクの雄、Gary Bartz(ゲイリー・バーツ)の「Dr. Follow's Dance」。泥臭く重厚なベースが最高に渋いです。

そして、そこにSly & The Family StoneのカバーであるKool & the Gangの「I Want to Take You Higher」の熱量あるフレーズなどがマッシュアップされています。

ジャズの深みと、ファンクの爆発力。これらを巧みにエディットして「世紀末の狂騒」を表現する手腕は圧巻の一言です。

Gary Bartz NTU Troop - Dr. Follow's Dance

Kool & the Gang - I Want to Take You Higher


最後に

今回はレジェンド、いとうせいこう氏の元ネタを探っていきました!いかがでしたでしょうか?

「Sun Ra」のようなアヴァンギャルド・ジャズから、「Armando Trovajoli」のようなイタリアン・サントラ、そして王道のジャズ・ファンクまで。

彼(とプロデューサー陣)の音楽的バックグラウンドがいかに深く、そして広いかが分かりますよね。単に流行りの曲をラップに乗せるのではなく、「音楽としての面白さ」を追求した結果のサンプリングだからこそ、何十年経っても色褪せないのだと思います。

日本語ラップの歴史を知る上でも、ぜひ原曲と合わせて聴き込んでみてください!

ではまた次の元ネタを探せ!でお会いしましょう!