HIPHOPはサンプリングのカルチャーだとよく言われますよね!
まずは最近聴き始めた人のためにサンプリングとは何かを簡単におさらいしましょう。
既存(過去)の音源から音(ベース音等)や歌詞の一部分を抜粋し、同じパートをループさせたり継ぎ接ぎするなど曲の構成を再構築することで名目上別の曲を作り出す手法のこと。
-サンプリング wikipediaより引用
要するに"過去の名曲のエッセンスを継承し、新しい音楽として蘇らせる"魔法のような手法ですね。
「パクリじゃないの?」なんて野暮なことは言わせません。そこには元の作品への強烈な"リスペクト"と、それをどう調理するかという"センス"が問われる、HIPHOPの根幹をなすアートフォームなんです。
この記事では、さまざまなアーティストの「元ネタ(サンプリングソース)」を探っていきます。
「この渋いベース、実は70年代のソウルだったのか!」とか「このフレーズ、あの大ネタと同じじゃん!」といった発見は、音楽を聴く楽しさを何倍にもしてくれます。
ってことで、第29回目はS.L.A.C.K.の元ネタを探っていきましょう!
現在の名義は5lack。東京都板橋区出身のラッパーでありビートメイカーで、実兄はPUNPEEです。兄のPUNPEE、GAPPERとの3人組PSG、BudaMunkとISSUGIとのSICK TEAMでも活動してきました。
今回は、2012〜13年頃に5lackへ改名する前の、S.L.A.C.K.名義の時代に絞ります。この時期の彼はサンプリングを多用したビートで知られ、ネタ帳の登録も18行と厚い。初期3枚のアルバムから7曲を紹介します!
S.L.A.C.K.の曲を元ネタと比較してみましょう
S.L.A.C.K. / Deep Kiss
まずは1stアルバム『My Space』から。
S.L.A.C.K. - Deep Kiss
Marlena Shaw - Feel Like Makin' Love
元ネタは、Marlena Shaw(マリーナ・ショウ)の「Feel Like Makin' Love」。ロバータ・フラックのヒットでも知られるスタンダードです。
ちなみにネタ帳には「Deep Kiss (Intro)」としてBlue Magicの登録も別にあるんです。1曲の中に複数のネタが重なっているのかもしれませんが、そのあたりは聴く側の想像も含めて楽しみたいところですね。
Marlena Shaw - Feel Like Makin' Love
S.L.A.C.K. / That's me
続いては2ndアルバム『Whalabout?』の幕開けを担う1曲。
S.L.A.C.K. - That's me
Creme D'Cocoa - Mr. Me, Mrs. You
元ネタは、Creme D'Cocoaの「Mr. Me, Mrs. You」です。
「Mr. Me」に対して「That's me」。一人称同士のタイトルが呼び合っているのが分かると、聴き比べがぐっと楽しくなるタイプの組み合わせですね。
Creme D'Cocoa - Mr. Me, Mrs. You
S.L.A.C.K. / Hot Cake
同じく初期の代表曲をもう1曲、『My Space』から。
S.L.A.C.K. - Hot Cake
Spinners - Could It Be I'm Falling In Love
元ネタは、フィリー・ソウルの名グループSpinnersの「Could It Be I'm Falling In Love」です。
甘いコーラスワークで知られるスピナーズの名曲が、脱力系のラップの土台になる。原曲の多幸感との落差に耳を持っていかれる1曲だと思います。
Spinners - Could It Be I'm Falling In Love
S.L.A.C.K. / Dream In Marijuana
『My Space』からはもう1曲、Blue Magicつながりで。
S.L.A.C.K. - Dream In Marijuana
Blue Magic - What's Come Over Me
元ネタは、Blue Magicの「What's Come Over Me」。フィラデルフィアのスウィート・ソウル・グループです。
冒頭で触れたDeep Kiss (Intro)の登録もBlue Magicでした。S.L.A.C.K.がこのグループを繰り返し掘っていることが、ネタ帳からも窺えます。
Blue Magic - What's Come Over Me
S.L.A.C.K. / But Love
ここからは3rdアルバム『我時想う愛』。まずは冒頭曲を。
S.L.A.C.K. - But Love
Love Unlimited Orchestra - Baby Blues
元ネタは、バリー・ホワイト率いるLove Unlimited Orchestraの「Baby Blues」です。
絢爛なオーケストラ・ソウルと、力の抜けたフロウの距離感。この「引き算」の美学こそ、S.L.A.C.K.の真骨頂だと思います。
Love Unlimited Orchestra - Baby Blues
S.L.A.C.K. / I Can Take it (Bitchになった気分だぜ)
タイトルに仕掛けがある1曲を。
S.L.A.C.K. - I Can Take it
Eugene Wilde - I Can't Take It
元ネタは、Eugene Wildeの「I Can't Take It」。
よく見てください。元ネタは「Can't(できない)」なのに、S.L.A.C.K.の曲名は「Can(できる)」。否定が肯定にひっくり返っているんです。これは誤記ではなく公式表記どおりの仕掛け。この1文字のひねりに、サンプリングの「反転」の美学が詰まっています。
Eugene Wilde - I Can't Take It
S.L.A.C.K. / いつも想う
最後は、意外な出どころの1曲で締めます。
S.L.A.C.K. - いつも想う
THE SQUARE - A Feel Deep Inside
元ネタは、THE SQUARE(後のT-SQUARE)の「A Feel Deep Inside」。日本のフュージョンです。
前々回のCHOUJI、前回のNujabesと、日本側の元ネタが続いています。海外のソウルばかりが掘り物じゃない、という流れはS.L.A.C.K.にもあったんですね。
THE SQUARE - A Feel Deep Inside
最後に
今回のS.L.A.C.K.の元ネタは、Marlena Shaw、Creme D'Cocoa、Spinners、Blue Magic、Love Unlimited Orchestra、Eugene Wilde、THE SQUAREという布陣でした。
スウィート・ソウルを中心に据えながら、国内フュージョンまで手を伸ばす。その掘り方の幅が、後の5lackの音楽性の礎になっているのがよく分かります。
ネタ帳には「SMG」(Donald Byrd)や、PSG名義・5lack名義の行も残っているので、そちらはPSG編や5lack編として改めてやりたいところです。
ではまた次の元ネタを探せ!でお会いしましょう!