解散前に聴きたいBAD HOPおすすめ曲5選

人気絶頂のなか「BAD HOP解散」のニュースが飛び込んできて、驚きを隠せない方も多いかもしれません。今回は、BAD HOPを紹介します。

BAD HOPは神奈川県川崎市出身の幼馴染が中心となって結成されたクルーです。

メンバーは片親の貧困家庭出身が多く、「日本で一番空気の汚い場所」と自らが語るような工場街で育った気合の入った本物の不良、それがBAD HOP。

本来のHIP HOPが持っている「差別や偏見、逆境や貧困への抵抗」というバックボーンに近い環境で育ったBAD HOPはある意味では「川崎生まれHIP HOP 育ち」、それだけでもヘッズにとは魅力十分といったところでしょう。

活動開始から自身で立ち上げたNew Rich Entertainmentに所属し、ほぼ年1枚のペースで9枚のアルバムをリリースした彼ら。2017年の全国流通音源リリースの翌年には武道館ライブも射止めたBAD HOPが、ビッグになった理由は2つあります。

1つはレーベルに所属していないが故の活動の自由度や多様性、そして中心メンバーでブレーンでもあるYZERRのビジネスセンスが2つ目の理由。YZERRの戦略は「ゴールからの逆算」ですが、これは大手企業などが行うものと同じで、ゴールを決めれば自ずと最短距離でやることが見えてくるという高度な戦略です。

「メジャーレーベル所属による活動制約」のない彼らは、YZERR、T-Pablowのメインラッパーが、高校生バトル優勝の経歴を引っ提げてフリースタイルバトルに多数出場、T-Pablowはフリースタイルダンジョンの初代モンスターを務めるなどして注目を集め、短期間で戦略的にその存在と実力の認知を爆上げ。

そこで自ら発信した「川崎からの成り上がり」というキーワードと相まって、彼らはあっという間に日本のHIP HOPシーンの頂点に立ち、頂点に君臨したまま解散を迎えるという、有終の美を飾ろうとしています。

認知や戦略だけでは売れないこの世界で今のポジションを確立したBAD HOP、当然、実力は一流です。

元は、高校生ラップ選手権でともに優勝経験のあるYZERR、T-Pablow兄弟(双子)が作ったクルーですから、そもそもの地ラップ力も高いのですが、二人とはフリースタイルバトルで幾度か顔を合わせた呂布カルマは、YZERRを「企業や大人が放っておかないほど頭がキレる」、Benjazzyを「飛びぬけてラップが上手い、他と違う」と高く評価していました。

T-Pablowは、2022年にR指定とのエキシビジョンバトルを組まれるほどのビッグネームです。

話題性、人気、実力と三拍子揃ったBAD HOP、おすすめの曲を紹介します。

Friends feat. Vingo, JP THE WAVY, Benjazzy, YZERR & LEX

最初に紹介するのは2021年に8枚目のアルバムとしてリリースした『BAD HOP WORLD DELUXE』から「Friends」。この曲は、彼らが大切にする仲間をテーマにした楽曲ですが、なんといってもトラックがクール。

シーンのど真ん中にいる彼らの自信と実力を示すとともに、そこまで成り上がった彼らを支えてくれた川崎の仲間たちへの感謝を大胆不敵にラップに落とし込んだこの曲は、夜中のドライブ中にハイウェイでスピードを上げて聴きたい一曲です。

楽曲、ラップ、フロウ、バースとどこから切っても、成熟したBAD HOPが繰り出した渾身の一撃だと思います。

Kawasaki Drift

次に紹介するのは2018年にリリースした4枚目のアルバム『BAD HOP HOUSE』から「Kawasaki Drift」。
不良と言えば車、不良の車と言えばドリフト。ということで、必然的に「BAD HOPは絶対こういう曲作るだろう」と感じさせる、彼らのキャラクターにガッチリとハマる一曲です。

今より若かった「現役」だった彼らの生活から切り取ったようなラップが相当きてます。

「安定なんかいらない 叩かねぇ石橋」「どう切り抜ける 街の事件は絶え間ねぇ」「成り上がるために 俺ら止まらねぇ」という反骨の応酬、しびれますね。

「サツより先 マフィアが動き」「血で血洗い しがらむ街」「この街からでれない 欲望が渦巻く街」、そんな毎日から一気に「アクセル全開」で抜け出して、「泥水からシャンペン カップ麺からロブスター」に人生を挿げ替えた彼らだからこそ書ける強烈なラップは唯一無二の破壊力です。

彼らにとっての日常は、我々にとって強烈に非日常であり、歌詞として読むだけでも高揚するヘッズも多いでしょうね。

Ocean View feat. YZERR, Yellow Pato, Bark & T-Pablow

3曲目は、BAD HOPの飛躍の年となった2017年リリースの『Mobb Life』から「Ocean View」。

彼らの真骨頂でもあるダークでクールな楽曲とは異なり、穏やかで和やかな雰囲気のこの曲。

MVも南の島を思わせる場所での撮影で、ラップの内容もそういった景色と風景、仲間との時間を過ごす大切な時間、といった構成です。

彼らが育ってきた川崎市の工場地帯から見える海は、立ち並ぶ工場と煙が染めた鉛色の空を映す汚れた海水、といった無機質で殺風景なものだったのではないでしょうか。

その街で繰り広げられる抗争や事件、そこから成り上がるという彼らの夢や想い。

そう考えると、ある意味では彼らの憧れていた海、行きたかった海、過ごしたかった時間の表れなのかもしれませんね。

Life Style - T-Pablow, YZERR

次に紹介するのは、フリーダウンロードで配信された「Life Style」。

こちらも、BAD HOPの中では、割と爽やかな一曲。

聴きやすいラップとトラックから、これキッカケでBAD HOPに触れたという人もいるのではないでしょうか。

ハードでクール、大胆不敵な楽曲がコアな魅力である反面、こういった爽やかなアレンジも早い段階から取り入れているBAD HOPのプロデュース戦略の上手さが光っています。

「BAD HOP真の姿をより光らせるために、真逆の姿も最上級に仕上げる」というYZERRの声が聞こえてきそうですね。

Mobb Life feat. YZERR, Benjazzy & T-Pablow

最後に紹介するのは、BAD HOPが初めて全国に流通させた2017年リリースの『Mobb Life』の一曲目に据えられ、ある意味ではBAD HOPの快進撃の幕を開けたとも言える「Mobb Life」。

「この街抜けだす勝つ俺らが」「数え切れんほど 手に札束」「景色を見に行くここから」「俺ら仲間と稼ぐMoney」という壮大な宣言から始まるこの曲は、彼らの所信表明のようなものでしょう。

そして、様々な戦略や大物とのコラボ、楽曲自体の破壊力で見事にこの宣言を実現させた彼ら。

そう考えると、なんだか感慨深い一曲です。

楽曲としても、ラップとしても、トラックとしても、まだまだ成熟し切っていなかったBAD HOPの初々しさや青さ、それ故に感じる勢いや将来性が詰め込まれたこの曲を聴いて、「BAD HOPは来る」と感じた人は相当な目利きでしょう。

まとめ

いかがでしたか、人気絶頂で解散と話題性も破壊力も抜群のBAD HOP。

生い立ちから来る注目度、ラップの実力、楽曲としての完成度、巧みなプロモーション戦略など、BAD HOPが頂点に上り詰めていく中で、レーベルの代表でもあり中心メンバーでもあるYZERRの存在は欠かせないものだったでしょう。

川崎に若者が無料で使えるスタジオを作る、若者やシーンをサポートするというYZERRの構想や活動、ビジネスセンスを呂布カルマは自身のYouTubeで「見習うことしかない」「ああいう人が街に一人いると動き方が変わる」「すべて自分たちでやれる」と、最上級と言っていいほど讃えていました。

無料CD配布や無料ライブ、無料ダウンロードの活用、フリースタイルバトルなどの拡散戦略、海外プロデューサーとのコラボも見事でしたが、個人的には、ラップ力随一のエース・Benjazzyを活動10年目で初めてフリースタイルバトルに参戦させるYZERRのカードの切り方は、センスも勝負勘も抜群だと感じました。

企画のアイディアや方向性を出し、実行の意志決定を負うYZERRは、メンバーやスタッフを気心知れた15人の仲間だけで構成し、自らマネジメントしています。

スピード感や自由度、独創性を重視しレーベルに所属しないこのスタイルを選択し、動かしてきたYZERRはもはや、新進気鋭の実業家と言っても言い過ぎではありません。最近では、「BUZZ HIGHER」というクラフトビールを手掛けるなどその活動は多岐に渡っていますね。

故hideは、「ROKET DIVE」で「何にもないってこと そりゃあ何でもありってこと」と歌い上げましたが、YZERRやBAD HOPは、まさにこの「何にもない」を「何でもあり」に転換して、一気にのし上がっていったのではないでしょうか。

現代のHIP HOPドリームを体現した彼らは、このあといったい何処へむかうのでしょうか。

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