Awichって何者?
現役最強のフィメールラッパーであるAwich(エーウィッチ)。
「今聴かずしていつ聴くの」と言っていいほどの勢いのある彼女ですがまずは、聞けば必ず聴いてみたくなるプロフィールをご紹介しましょう。
1986年12月16日に沖縄県で生まれた彼女は、米国の占領統治の抑圧感が色濃く残る沖縄で、フェンスの向こうに広がるアメリカ軍の自由な風土に憧れながら育ちました。
皮肉なことに「黒人が権力からの解放や自由を勝ち取るために米国で生まれたHIP HOP」が、「米国占領から解放され自由を勝ち取ろうとしている沖縄」で生まれ育ったAwichの心を魅了したのです。
中学生で2Pacに傾倒し、季節の変わり目や恋などでざわつく感情をリリックにしたため、独学でラップを学んだ彼女は、沖縄のレーベルに乗り込みラップを披露。その実力から当時レーベルが制作中だった楽曲の客演参加を勝ち得た彼女は、「沖縄の音楽界を広めるために学びたい」という想いで米国の大学に進学します。
大学に通うAwichは、通学路で夫と出会い恋に落ちます。彼との結婚と出産を経験し、愛すべきものを手にした彼女は、ギャングだった夫と娘との自由な未来を求め、日本への移住を考えるようになるのでした。しかし、夫の思想とのすれ違いで大きな喧嘩に発展し一時帰国した際に、夫が銃殺されるという悲劇が彼女を襲います。「彼を日本に連れて行けばこんなことにはならなかった」という失意を2年もの間傷を引きずって蹲っていた彼女。
それを見兼ねた父親が「沖縄の人は皆、大切な仲間や家族を失っても自由のために戦ってきた」と語りかけ、「自らに流れる沖縄の血」の重みを痛感し再び立ち上がったAwich。夫への想いや自分の人生、自らの感じてきた想いを形にするべく歌いはじめるのでした。
沖縄のHIPHOPの中心にいたkZm(カズマ)氏に出会った際に、制作中の楽曲を聴かせたところ、kZm氏はその才能に愕然としたといいます。あまりの衝撃に彼はその場でプロデューサーのchaki zulu氏に連絡し、その日のうちに対面。そうしてAwichは、YENTOWN所属となったのでした。このようにして実力でチャンスを掴み、最終的にメジャーレーベルに移籍を果たしたAwichのおすすめ5選です。
Awich おすすめの曲 5選
GILA GILA feat. JP THE WAVY, YZERR (Prod. Chaki Zulu)
まずは、今のポジションを確立したAwichが放つ、現時点での最強の曲のひとつといっていい「GILA GILA」。
ここまでの人生を乗り越えて自分の力でポジションを作り上げてきたという自負と、それだけで終わらない、終わってはいけないという自分の信念をリリックにしたようなこの曲。彼女の新たなスタートを飾るに相応しい一曲に仕上がっています。
コロナ禍だった2021年7月であったこともあり配信限定となったこの曲は、2500万再生に迫る勢いを見せ、ビッグチューンとなりました。
洗脳 feat. DOGMA & 鎮座DOPENESS (Prod. Chaki Zulu)
続いては2020年にYENTOWNからリリースした「洗脳」。
仏教の思想も感じられるリリックからは「欲や権力に溺れる人間とその上に胡坐をかく無能な権力者」の愚かさや儚さが伝わってきます。「そんなことに溺れていないで、ひたすらに生きろ」と言わんばかりに「バカばっかだ、まったく」と吐き捨てるラップは、超絶クールでスカッとしますね。
そんな強烈なメッセージを、このようなストーリーにメイキングするAwichの構成力がさく裂したこの曲は、彼女の名曲のひとつであり曲調やリリックの内容にバチバチにマッチングした鎮座DOPENESS氏のキャスティングもセンス抜群と言わざるを得ないでしょう。
Crime - ft. kZm (Prod. Ke Yano$ & Chaki Zulu)
日本語ラップが少ないながらも、この曲はマストな一曲。
というのも、YENTOWNでのAwichの歴史の幕開けとなるキッカケを作った曲だからなのです。
冒頭のプロフィールでも紹介しましたが、kZm氏にあった際にこの曲を聴かせたところ、その才能に驚愕した彼が即プロデューサーに紹介し、YENTOWN所属が決定した訳ですが、この曲を聴くまでは「お前誰?」という態度だったkZm氏を一気に引き込んだこの曲にこそ、Awichの実力と才能が詰まっていると言っていいのかもしれません。
2018年にリリースされたYENTOWNでのファーストアルバム「8」に収録されたこの曲からAwichの快進撃が始まったのでした。
Bad B*tch 美学 Remix (Prod. Chaki Zulu)
次は最新アルバムの「United Queens(2023年)」の一曲目に収録されたこの曲。
フィメールラッパーの最重要人物として、多くの女性ラッパーとコラボレーションしているAwichですが、その活動はラップの域を超え、シンガーのAIさんや芸人のゆりやんレトリィバァさんなどとも共演。
Awichの作った轍を辿って、大きく前進できたフィメールラッパーも数多く存在することでしょう。
ある意味では、日本の女性の職業や職域、立場やポジション、その精神性を上に引き上げていくような存在にすらなってきている彼女を象徴するような楽曲に仕上がっています。
ゆりやんレトリィバァさんのラップ内容に力をもらった方も多いのではないでしょうか。
Jah Love feat. Yomi Jah (Prod. STiKz)
最後はこの曲です。
こちらも2018年にリリースされたYENTOWNでのファーストアルバム「8」に収録された曲です。Awichが、夫と娘という大切な家族を歌った一曲にして、娘でありアーティストとしても活動するYomi Jahさんと共演を果たした愛に溢れる一曲です。
冒頭のYomi Jahさんの幼さの残る、それでいてしっかりと韻と自分の想いを踏み込んだラップには、感動すら感じます。武道館ライブではこの曲をYomi Jahさんと壮大に歌い上げ、見る者の涙を誘いましたね。
Awichのルーツとも言えるこの曲は、彼女の最高傑作かもしれません。
まとめ
今回はAwichについてご紹介しましたが、いかがでしたか?
沖縄の置かれた状況やその未来、沖縄に暮らす子供たちについて数多く歌ってきたAwich。自らが設立した会社で沖縄ローカルの番組を制作したり、数多くのフィメールラッパーや女性アーティストとの共演を行うなど、もはやその活動は「ラッパーを超えたラッパー」になりつつあるほどの勢いを感じませんか。
彼女の活動は、音楽に留まらず2022年3月には映画にヒロイン役で出演し、主題歌も担当するほどのスケール感を見せています。
彼女の本名は亜希子ですが、「亜=Asia」「希=Wish」「子=Child」のそれぞれの頭文字から作った名前がAwichだそうです。Awichの存在感から、将来的には「アジアに希望を与える存在」にすらなりそうな期待すらも感じてしまいますね。
Awichは、戦争で沖縄を窮地に追い込んだ米国が生み出した「自由を勝ち取るためのHIP HOP」で、沖縄や沖縄のHIO HOPシーンに、そして日本の女性に、偉大なる勇気や力を与えていると言ってもいいでしょう。
沖縄に生まれ、自らの力で未来を作り、愛するものを失ってもなお戦い続けるスケールの違うAwichに、これからも注目していきたいと思います。