唾奇とは?
唾奇(つばき)は、1991年8月4日生まれ、沖縄県那覇市出身のラッパー。
その生い立ちは壮絶で、シングルマザーの母親のネグレクトによりほぼ母親とは関わらない人生を歩んできました。
年に数日くらいしか帰ってこない母親は、帰ってきても男を連れだっての帰宅も多かったといいます。
食事は祖母が時折届けてくれますが、なければ近所やマンションの住人に恵んでもらうような生活でした。
場合によっては2歳年上の姉が万引きしてきた食べ物を分け合うこともしばしばだったといいます。
そんな中で姉は不良になりシンナーに手を出すなど荒れていきますが、唾奇の唯一の光は姉の彼氏が教えてくれたHIP HOP。
最初はダンスに興味を持ちますが、人脈などの関係でラッパーを選び今に至ったといいます。
アルバイトをしていた唾奇は、たまにしか来ない母親にお金を預けていましたが、当然のごとくお金は使い込まれていき、母親の捌け口としてDVを受けることも多々あったそうです。
このように壮絶な家庭環境でも高校進学だけは諦めなかった唾奇は2年遅れて高校に入学。
高校時代は安いパソコンとSKYPEを使って、ネット上に転がるフリートラックにラップを乗せて腕を磨いたそうです。
壮絶で悲しい環境でも行動することをやめなかった唾奇は好きなアニメのキャラから「椿」という名前を拝借します。
しかし、きれい過ぎるからという理由で名前を「唾奇」と汚したのでした。
このように悲しみを帯びたセンスと表現力に溢れる唾奇、ラップは毒がありながらも心に沁み込む独自性を有すると高い評価を得ています。
そんな唾奇のおすすめの曲を見ていきたいと思います。
唾奇 おすすめの曲6選
RASEN in OKINAWA (Prod. Diego Ave)/Awich, 唾奇, OZworld, CHICO CARLITO
まずは沖縄ラッパー陣とのコラボからいきます。
THE BOOMの島唄を入り口にAwichが口火を切り、唾奇が切り込んでいく流れが怪しくも大胆不敵であがりますね。
OZworidやMCバトルでお馴染みのCHICO CARLITOがその流れを引き継ぎ、和とオリエンタルが融合した独特のトラックが淡々と、しかし着々と反骨心を掻き立てる「RASEN in OKINAWA」。
沖縄をシーンの重要なポジションに据えるべく活動する沖縄魂、唾奇にもしっかりと備わっているようです。
地元へのレペゼン、沖縄はその独自の歴史から本土とは異なる深い繋がりがあるのですね。
Walkin
唾奇の半生をつづった「Walikn」。
人、モノ、金…、何が必要なのか迷いながら探しながら歩き回る人生が今日も続く、という日記のような一曲が心に沁み込んでいきますね。
過去の人生の影響なのか、もともとの性格なのか、どこか冷めた感じや一線を引いて客観視しているような立ち位置、視点が我々にとっては異世界を感じさせて聴き入ってしまいます。
物事のいい悪いではなく、生きることをそのまま受け入れた唾奇のフラットな感情が、聴く人の心を落ち着かせてくれるようです。
しかし、「わからないふりしてまた歩く」という一節が、本当は全てを知っていて語らないようにしている唾奇の心を物語っていますね。
彼のラップはどれも一本の映画のように心の移り変わりが自然に描かれていて、その感情の切り出し方が妙にアーティスティックに突き刺さってきます。
South Side Ghetto
沖縄のゲットーで送る混とんとした暮らしの中で湧き上がる不満を吐き出していく「South Side Ghetto」。
中盤から転調してさらに加速していく不条理への陰鬱な言葉や感情。
人間ですから、そんな日もあります。
ありのままの感情を、荒げることなく淡々と吐き出すことで生まれる独特のグルーブ。
唾奇のラップはまるで現実の鏡のように、しずかにその情景を写しているのですね。
自分の抱える感情と、繰り広げられる感情のギャップが生み出す不調和が唾奇をラップに駆り立てたのでしょうか。
DJ HASEBE / ROOM VACATION feat. 唾奇 & おかもとえみ
続いてはDJ HASEBEとのコラボレーション。
唾奇単体では描かない絵、つけない色、見せない表情が引き出されていて、気だるくも爽やかな楽曲に仕上がっていますね。
「たまにはこんな日もいいね」というラップが入りますが、聴く側からしても「たまにはこんな唾奇もいいね」と感じるような雰囲気がなんとも小気味いい楽曲。
ある意味では、こういった感情に蓋をしている唾奇のように感じられますが、人の手によって解き放たれた無垢の感情が曲の中を行き来しているかのようですね。
自分では作らない楽曲に合わせて器用にラップを乗りこなす訳ですから、地ラップ力はかなり高い唾奇。
まだまだ可能性を感じます。
Made my day/唾奇 × Sweet William
メロディアスでジャジーなトラックに乗せた唾奇のラップが心地よい一曲となった「Made my day」。
よく聴き込むと誰の中にでもあるような一般的な感情や湧いては消える衝動をラップに落とし込みながら、自分なりの愛情を表現しているリリックが素晴らしい仕上がり。
最後は誰に愛を投げかけたのか、その答えは唾奇のみぞ知る、なのですね。
大人になって自分の手で掴んだ自分の居場所や空間に、照れながらも浸っているのでしょうか。
幸せになりたいのか、幸せになって欲しいのか、敢えて曖昧なままで受け入れている唾奇の世界観がよく描かれた傑作です。
Good Enough feat. kiki vivi lily/唾奇 × Sweet William
最後は、ありふれた毎日の中で掴んだ小さな安らぎや安定を唾奇のフィルターから吐き出したかのような楽曲「Good Enough feat. kiki vivi lily」。
ラスト2曲は、少しずつ満たされて丸になっていく途中の唾奇の感情や心情が垣間見える曲だと思います。
報われなかった少年時代から脱却して、唾奇が手にした日常が穏やかであるように、そんな気持ちにさせてくれる名曲ですね。
Sweet Williamもまた、唾奇単体では描かなかった絵を共に描き進める存在なのかもしれません。
まとめ
唾奇のおすすめの曲をご紹介しました。
楽曲やコラボする相手によって自分の芯はブラさずにラップスタイルやリリックの内容をアジャストできる器用さを武器にしつつ、それでいてブレない一貫性を表現している唾奇。
そのスキルやセンスの高さには正直驚きましたね。
彼のラップやリリックは、HIP HOPという素材を使ってまるでエッセイを綴っているような豊かさや鮮やかさ、鋭い視点を感じさせます。
Awichを中心に勢いを増す沖縄勢全体の動向も気になりますが、さらに年齢や経験を重ねた唾奇が繰り出すラップがどんなものなのか、今からとても楽しみです。
引き続き、唾奇を聴き込んでいきましょう。