HIPHOPはサンプリングのカルチャーだとよく言われますよね!
まずは最近聴き始めた人のためにサンプリングとは何かを簡単におさらいしましょう。
既存(過去)の音源から音(ベース音等)や歌詞の一部分を抜粋し、同じパートをループさせたり継ぎ接ぎするなど曲の構成を再構築することで名目上別の曲を作り出す手法のこと。
-サンプリング wikipediaより引用
要するに"過去の名曲のエッセンスを継承し、新しい音楽として蘇らせる"魔法のような手法ですね。
「パクリじゃないの?」なんて野暮なことは言わせません。そこには元の作品への強烈な"リスペクト"と、それをどう調理するかという"センス"が問われる、HIPHOPの根幹をなすアートフォームなんです。
この記事では、さまざまなアーティストの「元ネタ(サンプリングソース)」を探っていきます。
「この渋いベース、実は70年代のソウルだったのか!」とか「このフレーズ、あの大ネタと同じじゃん!」といった発見は、音楽を聴く楽しさを何倍にもしてくれます。
ってことで、第10回目はISSUGI(イスギ)の元ネタを探っていきましょう!
東京・DOGEAR RECORDSの中心人物であり、MONJU / DOWN NORTH CAMPのMC。そしてビートメイカーの名義は16FLIP。彼の作り出す音楽は、どこまでも「東京の路地裏」が似合う、埃っぽくてドープなサウンドです。
新旧問わず「良い音楽」を掘り起こし、独自のグルーヴで再構築するその手腕。今回は彼自身の楽曲に加え、彼がプロデュースに関わった楽曲も含めて、その極上のサンプリング・センスを紐解きます。
ISSUGIの曲を元ネタと比較してみましょう
ISSUGI / CONGE SPIRITS
まずはアルバム『GEMZ』にも収録(バンド再録版)されている名曲ですが、ここではGradis Niceがプロデュースしたオリジナル版の雰囲気に触れたいと思います。不穏な空気感と、ISSUGIの鋭いラップが絡み合う、緊張感あふれる一曲。
【元ネタ】Fugees - Ready or Not
ヒップホップ・ファンならイントロで反応してしまう超クラシック!90年代を代表するグループFugees(フージーズ)の大ヒット曲です。(ちなみにFugees自身もEnyaの『Boadicea』をサンプリングしています)。
この曲が持つ、暗闇の中に潜むような「怪しさ」と「力強さ」。そのバイブスを現代の東京のビートに落とし込んでいます。元ネタの持つメロディの不気味さが、ISSUGIのハードなスタイルにバッチリハマっています。
ISSUGI / Lil Sunshine
16FLIPのビートメイクが冴え渡る、極上のチル・チューン。タイトル通り、雲の隙間から陽の光が差し込むような、暖かくて心地よいグルーヴが最高です。天気の良い休日の昼下がりに聴きたくなる曲No.1ですね。
【元ネタ】O'Bryan - Doin' Alright
元ネタは、80年代に活躍したR&BシンガーO'Bryan(オ・ブライアン)による1982年のファンク・ナンバー。アルバム『Doin' Alright』のタイトルトラックです。
80'sファンク特有の「軽快さ」と「シンセサイザーの音色」がとにかく気持ちいい!16FLIPはこの原曲の持つ「ご機嫌なグルーヴ」をそのままループさせ、BPMを調整することで、ヒップホップらしい首を振れるビートに仕上げています。
ISSUGI / LINK
ISSUGIの楽曲の中でも特にエモーショナルな響きを持つ一曲。ただハードなだけでなく、内面的な感情や繋がり(LINK)を描き出すリリックが、哀愁漂うループの上で展開されます。
【元ネタ】Michael Jackson - With A Child's Heart
サンプリングされているのは、なんとMichael Jackson(マイケル・ジャクソン)!彼がまだ少年の頃、1973年にリリースしたソロ・アルバム『Music & Me』に収録されているバラードです。
変声期前のマイケルの、透き通るような純粋な歌声。この曲が持つ「ピュアな美しさ」をサンプリングすることで、楽曲に深い哀愁と優しさを与えています。世界的な大スターの曲でも、躊躇なくドープなヒップホップに変えてしまうセンスに脱帽です。
ISSUGI / Morning
朝の気怠さと、これから始まる一日への意識。日常の風景を切り取ったようなリリックが印象的な楽曲です。16FLIPらしい、シンプルながらも耳に残るループが中毒性を生んでいます。
【元ネタ】Harold Melvin & The Blue Notes - Wake Up Everybody
元ネタは、フィリー・ソウルの名門グループHarold Melvin & The Blue Notesによる、1975年の歴史的名曲「Wake Up Everybody」。リードボーカルはTeddy Pendergrassです。
原曲は「みんな目覚めろ(意識を変えろ)」という社会的メッセージの強い曲ですが、ISSUGIはこれを「Morning(朝)」というテーマとリンクさせ、ダブルミーニング的に使用しているのが洒落ています。ソウルの名曲はいつ聴いても色褪せません。
ISSUGI / Perfect blunts
スモーキーで、どこかサイケデリックな浮遊感。紫色の煙が立ち込めるような、妖艶な雰囲気をまとったビートです。ISSUGIのフロウも煙に巻くように自由自在。
【元ネタ】Kadhja Bonet - Remember the Rain
この曲のすごいところは、元ネタが2016年リリースの新しい曲だという点です!LAを拠点とするシンガーソングライターKadhja Bonet(カジャ・ボネ)の楽曲。
彼女の音楽は「サイケデリック・ソウル」とも呼ばれ、現代の曲なのにまるで70年代のレコードから掘り出したようなヴィンテージ感があります。16FLIPが古いレコードだけでなく、現行の良質な音楽にもアンテナを張っていることがわかる好例です。
ISSUGI / Thursday
日常を淡々と、しかし力強く生きる様を描くような曲。ドラムのキックとスネアが重く響き、その上でラフなギターのカッティングがループする、男臭いブーンバップ・チューンです。
【元ネタ】Jimmy Cliff - Commercialization
元ネタは、レゲエ界のレジェンド、Jimmy Cliff(ジミー・クリフ)!映画『ハーダー・ゼイ・カム』でも有名な彼ですが、この曲はファンキーでソウルフルな側面が強く出ています。
レゲエ・アーティストが奏でるファンク独特の「粘り気」と「反骨精神」。その土臭いグルーヴが、東京のコンクリートジャングルを生き抜くISSUGIのスタンスと共鳴しています。
ISSUGI & Gradis Nice Feat. KID FRESINO & 5LACK / Time
盟友Gradis Niceとの共作アルバムより。KID FRESINO、5lackという最強の布陣で「時間(Time)」をテーマにマイクリレーする豪華な一曲。浮遊感のあるシンセサウンドが、流れる時の中で漂うような感覚を与えてくれます。
【元ネタ】Wayne Henderson - Starry Eyes
サンプリングされているのは、The Crusadersのトロンボーン奏者としても知られるWayne Henderson(ウェイン・ヘンダーソン)のソロ作。1977年のアルバム『Big Daddy's Place』収録の、極上メロウ・フュージョンです。
原曲のタイトルが「Starry Eyes(星のような瞳)」というだけあって、キラキラとしたコズミックな広がりを感じさせます。この宇宙的な広がりを「Time」という壮大なテーマに落とし込むセンス。最高としか言えません。
16FLIP / Love it though feat. Georgia Anne Muldrow
最後はISSUGIのビートメイカー名義、16FLIPのアルバムより。LAのアンダーグラウンド・シーンの女神、Georgia Anne Muldrowをフィーチャーした一曲です。
日本人ビートメイカーが彼女とコラボすること自体が事件ですが、そのビートは国境を超えて共鳴する、黒くて太いグルーヴに満ちています。
【元ネタ】Ripple - Fact Of Life
元ネタは、70年代のファンク・バンドRipple(リップル)の名曲「Fact Of Life」。
冒頭のドラムブレイクからベースラインが入ってくる瞬間、もう「間違いない」と確信させられます。ソウルフルでありながら、しっかりと「首を振らせる」機能美を持ったトラック。16FLIPがいかにブラックミュージックの歴史をリスペクトし、研究しているかが伝わってくる一曲です。
最後に
今回はISSUGI、そして16FLIPの元ネタを探っていきました!いかがでしたでしょうか?
マイケル・ジャクソンのような超メジャーなアーティストから、Jimmy Cliffのようなレゲエ・レジェンド、さらにはKadhja Bonetのような現行のアーティストまで。
彼のサンプリングの幅は非常に広いですが、共通しているのは「どれも最高にドープで、ソウルフルである」ということ。
ただレコードを掘るだけでなく、そこから「自分たちのヒップホップ」として成立する部分を鋭い嗅覚で抜き出しているのが分かりますね。
ぜひ、元ネタのフルバージョンも聴いて、その奥深い世界に浸ってみてください。
ではまた次の元ネタを探せ!でお会いしましょう!