HIPHOPはサンプリングのカルチャーだとよく言われますよね!
まずは最近聴き始めた人のためにサンプリングとは何かを簡単におさらいしましょう。
既存(過去)の音源から音(ベース音等)や歌詞の一部分を抜粋し、同じパートをループさせたり継ぎ接ぎするなど曲の構成を再構築することで名目上別の曲を作り出す手法のこと。
-サンプリング wikipediaより引用
要するに"過去の名曲のエッセンスを継承し、新しい音楽として蘇らせる"魔法のような手法ですね。
「パクリじゃないの?」なんて野暮なことは言わせません。そこには元の作品への強烈な"リスペクト"と、それをどう調理するかという"センス"が問われる、HIPHOPの根幹をなすアートフォームなんです。
この記事では、さまざまなアーティストの「元ネタ(サンプリングソース)」を探っていきます。
「この渋いベース、実は70年代のソウルだったのか!」とか「このフレーズ、あの大ネタと同じじゃん!」といった発見は、音楽を聴く楽しさを何倍にもしてくれます。
ってことで、第9回目はI-DeA(アイデア)の元ネタを探っていきましょう!
2000年代中盤〜後半の日本のヒップホップシーン、特にSEEDAやSCARS周辺のムーブメントを語る上で絶対に外せない天才トラックメイカーです。彼の作るビートは、とにかく「エモーショナル」で「ドラマチック」。
サンプリング主体のスタイルでありながら、原曲の美味しいところをただ使うだけでなく、緻密に再構築されたメロディには独特の「泣き」があります。今回は彼の名盤『self-expression』や『Da FRONT and BACK』周辺の楽曲から、センス抜群の元ネタを紹介します。
I-DeAの曲を元ネタと比較してみましょう
I-DeA / AMAZIN' Feat. Kenji Yamamoto, SMITH-CN
まずはアルバム『Da FRONT and BACK』(2007年)に収録されたこの曲。茨城・BACKYARDのラッパーSMITH-CNの泥臭くも力強いラップと、Kenji Yamamotoのソウルフルなボーカルが絡み合う名曲です。
ストリートの過酷な現実と、そこから這い上がろうとする希望。その両方を表現するかのような、重厚でシリアスなビートが胸に刺さります。
【元ネタ】James Mtume - Bessie's Theme
このシリアスな空気感の正体は、ジャズ・パーカッショニストであり、R&Bグループ「Mtume」のリーダーでもあるJames Mtume(ジェームス・エムトゥーメ)の楽曲です。
映画『Native Son』(1986年)のサウンドトラックに収録されているこの曲。マイルス・デイヴィスのバンドにも参加していた彼らしい、ジャズとブラック・コンテンポラリーの間を行くような、深く沈み込むような旋律が特徴です。
I-DeAはこの曲が持つ「夜の闇」のような雰囲気を抽出し、ヒップホップのドープなビートへと昇華させています。
I-DeA / comedy Feat. 田我流
続いては、2013年のアルバム『12ways』から、山梨を代表するラッパー田我流(でんがりゅう)を迎えた一曲。
「人生は喜劇だ」と歌う田我流のリリック。日常の悲喜こもごもをユーモアたっぷりに、かつ少しの切なさを交えて描く彼のスタイルに、I-DeAの温かみのあるビートが完璧にマッチしています。聴くと元気が出る、隠れた名曲です。
【元ネタ】MTUME - Sweet For You And Me (Monogamy Mix)
なんとこちらも元ネタはMtume(エムトゥーメ)!先ほどの『AMAZIN'』と同じアーティストですが、こちらは打って変わって80年代らしい煌びやかでアーバンなファンク/ソウル・ナンバーです。
Mtumeといえば「Juicy Fruit」(The Notorious B.I.G.のJuicyの元ネタ)が有名すぎますが、この曲を選ぶあたりにI-DeAのディグ(レコード掘り)の深さが伺えます。
イントロのシンセサイザーの音色や軽快なリズムをうまく使い、原曲が持つ「甘酸っぱさ」をそのまま現代のヒップホップに持ち込んでいます。
I-DeA / Whoa Feat. SEEDA
I-DeAとSEEDA。この二人の相性の良さは説明不要でしょう。
SEEDAのキレッキレの高速フローと、I-DeAのドラマチックなトラックが衝突したバンガーチューンです。
息継ぎすら忘れるようなSEEDAのラップスキルもさることながら、バックで鳴り響くピアノのループがとにかく美しく、そして切ない。日本語ラップの歴史に残るクラシックの一つです。
【元ネタ】Isaac Hayes - Ike's Mood I
元ネタは、ソウル界のレジェンドIsaac Hayes(アイザック・ヘイズ)による、あまりにも有名なインストゥルメンタル曲「Ike's Mood I」です。
このピアノの旋律、聴いたことがある人も多いのではないでしょうか?
Mary J. Bligeの「I Love You」をはじめ、世界中のアーティストにサンプリングされてきた、いわゆる「大ネタ中の大ネタ」です。
あえてこれほどの有名ネタを使いながらも、しっかりと「I-DeAのビート」として成立させている点に、プロデューサーとしての自信と手腕を感じます。ピアノの美しいパートを切り取りつつ、ドラムの打ち込みでヒップホップの強度を持たせています。
I-DeA / 暴風雨 Feat. 降神
最後は、早稲田大学ソウルミュージック研究会出身の異能のユニット、降神(オリガミ)をフィーチャーした『暴風雨』。
なのるなもない&志人(シビット)による、哲学的で抽象的なリリック。タイトルは「暴風雨」と激しいですが、トラック自体は非常にメロウで浮遊感があります。
この「激しい言葉」と「穏やかなトラック」のギャップが、聴く者を不思議な世界へと誘います。雨の日に部屋で一人で聴きたくなるような一曲です。
【元ネタ】Phil Upchurch & Tennyson Stephens - Don't I Know You?
サンプリングされているのは、ギタリストのPhil Upchurch(フィル・アップチャーチ)とピアニストのTennyson Stephensによる共作アルバム(1975年)からの極上メロウ・ソウルです。
エレピの揺らぎと、甘いボーカルが溶け合うようなイントロ。この楽曲が持つ「優しさ」や「アンニュイな雰囲気」をそのまま活かしています。
降神の二人が紡ぐ、まるで詩の朗読のようなラップスタイルには、ガンガンのドラムよりも、こうした空間を感じさせるジャズ・ソウルが最高に合いますね。
最後に
今回は名匠I-DeAの元ネタを探っていきました!いかがでしたでしょうか?
I-DeAのトラックは、単にループさせているだけでなく、「感情を揺さぶるポイント」を的確に抜き出しているのが分かります。
James MtumeやIsaac Hayesといったブラックミュージックの巨匠たちの名曲から、哀愁や優しさを抽出し、ラッパーたちの言葉にドラマを与える。
元ネタを知った上で改めてI-DeAのアルバムを聴き直すと、また違った景色が見えてくるはずです。
ではまた次の元ネタを探せ!でお会いしましょう!